師匠と僕
祭りのあった翌日からコウヤは毎日、誰にも見つからないように森を訪れてるよいになっていた。
そんなコウヤも最初はミカに見つかり心配をかけてしまっていた。
ミカは、コウヤが一人で出歩くのを心配していたが、コウヤも6才になり『少しは外に出ないと行けない』と必死に説得した結果、危ない事をしないと言う条件と危ない場所に行かないと言う2つの条件でミカが頭を抱えながら許可をする。
「母さん、行ってくるね」
「はい、気を付けていくのよ」
学校が休みの日は、朝から森に向かう。勿論、行き先はミカには内緒であった。
コウヤの学校が休みの日でも、ミカには道場の師範としての仕事があり、仕方なく許したのである。
そんなミカはコウヤが出掛ける前には、決まって包帯の巻き直しとある質問をする様になっていた。
「コウヤ、笛はちゃんと持った?」
「大丈夫だよ。ちゃんと首にかけたから」
村祭りの後、コウヤに笛を持つようにミカは注意をするようになっていた。迷っても笛を吹くことで場所を知らせる為であり、それをコウヤが身につける事でミカは一種の安心感を得られていた。
ミカの心配を余所に森に向かうコウヤ、その日は村祭りから一月が経過していた。
「今日も来たのか、少年」
森にコウヤが到着すると木の上から声をかける一人の男。
コウヤの師匠であり、祭りの日にコウヤに未来を与えた人物。
師匠の名はソウマ。
ソウマもコウヤと同じ島人を母に持つ人物であり、島人が母親だと聞いて最初、コウヤも自分と同じ境遇に驚きを露にしていた。
この世界において、島人が母親なのは大して珍しい事では無いのだが、コウヤやソウマの様に故郷の名をつける者は少ないのが現状であった。
島人の子供でも名前は此方の世界のモノを付けることの方が多いからだ。
そんなソウマは、まだ幼いコウヤが自身の話を理解する事にいつも驚かされていた。
コウヤは眼が使えない分、話を理解する様に努力し聞くことに集中する幼少期を過ごさざるを得なかったのである。
その為、ソウマの話した内容が解らなければ、直ぐに聞き直していた。
そんなやり取りが最初の日から続いていたのである。
次第に魔力の流れを理解していくコウヤは、ソウマの話も直ぐに解るようになり始めていた。
「少年? 今は何か見えるか」
そう言われコウヤは目の前にあるボールの様なモノを見詰めた。
「丸いものが見える、これは何色って言うんだろ?」
「これは林檎だ。そして、この綺麗な色は赤と言うんだ」
「赤? これが赤! 師匠、僕にも見えた! 見えたよ」
林檎を知っていたが林檎が丸い事は知らなかったのだ。
いつも切ってある物しか食べた事がなかったコウヤからすれば、林檎が丸い事実は、凄い衝撃であった。
「凄いぞ少年、本来なら体外魔力を感じるだけで数ヵ月は掛かるだろうに、もう色が分かるなんて少年は天才かも知れんな」
褒められてコウヤは心から喜んだ。
それにも増してコウヤは自分で色が分かったことが嬉しくて仕方なかった。
「少年、喜んでる所悪いが、この事は誰にも言っちゃいけない、いいね?」
「せっかく見えるのに、母さんにも友達にも言ったらダメなの?」
「もし、少年が体外魔力を完全にコントロール出来るように成った時、周囲は少年を危険視するかもしれない、そして小さな恐怖が大きな恐怖になる事もあるんだ。今のこの世界はそう言う風になってしまっているんだ」
そう言うとソウマから悲しそうな香りがしていることにコウヤは気がついた。
涙の香り、普通の人なら気づかないだろう、その香りをコウヤは感じていた。
「さあ少年、今日もまた体外魔力を継続して集める訓練だ」
2週間は体外魔力を集める訓練だけでなく、それを持続させて自身の中に集め続ける事に重点を置いたモノに替わっていた。
始めてから2週間程で、コウヤは体外魔力を朝から夕方まで、集める事に成功していた。
だが、ソウマには、それを伝えていない。
目標は、起きてから寝るまでの間の持続であり、それと共に景色を自分で見続ける事にあったからだ。
「少年、本当に凄いやつだよ、普通の人間ならそこまで辿り着くのに5年は掛かっただろう、正直、俺も驚かされる成長速度だ」
ソウマの言葉にもっと頑張らないといけない。
もっと喜ばしてあげたいとそう感じていた。
まるでソウマがコウヤの中で父親の様な存在になっていた。
「少年、そろそれ夕暮れだ、帰らねばお母さんが心配するぞ?」
「この眩しいのが夕暮れ、なんですね。曇り空ばかりだったから分からなかったですが、とても綺麗な色だったんですね」
その言葉にソウマは驚いた。
「少年! 今もまだ見えているのか?」
「あ、いけない、バレちゃいましたね、今も見えてます。多分1週間を過ぎた辺りから、この時間まで持つようになりました」
そう話すコウヤにソウマの口は開いたまま呆けていた。
「まさか、6才の少年が此処まで出来るとは、正直驚いたよ、元々少年は魔力が常人より、かなり多いのかも知れないな?」
一人で考え込むソウマは腕をくみ勝手に頷いていた。
「そうなんですか?」
「少年は賢く集中力もある!いつか世界を変える人物になるかもしれないな」
ソウマはそう言い、嬉しそうに笑っていた。
只、コウヤは、ソウマの顔を見ようとするといつも靄が掛かったかのようにボヤけてしまう、その理由も後日聞いてみようと思いながらボヤけたソウマの顔から分かる笑みを見ているのだあった。
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