ポケットの中で
「此処は何処だろう……」
不思議な感触に目を覚ました。腕の中には確りと赤子を抱き抱え、コウヤはふわふわの何かに寝そべっていた。
とっさに起き上がり体外魔力を発動したが何も眼に流れ込んで来ないことがわかった。だが、スヤスヤと寝息を立てる赤子の温もりが腕を通して伝わってくる。その事実だけで少し不安が和らいだ。
最後に覚えている光景はパンプキンが確りと赤子を抱き締めるように言って、言われるがままに赤ちゃんを抱き締めた所であった。しかしコウヤはその先を思い出せないでいた。
「あーもう、思い出せないし体外魔力が使えない。困ったなぁ」
独り言を呟きながら再度、その場に寝転んだ。
「ふぅ…さて、取り合えず自分が何処にいるのかだけでも、確かめないとな」
直ぐに気持ちを切り替えると立ち上がった。足元はふわふわと柔らかい感触が爪先から全身に伝わる。赤ちゃんを落とさないように注意を払いながら立ち上がる。産まれたばかりの赤子を落としでもしたら命に関わる事は10歳のコウヤにも理解できたからだ。
コウヤは赤子を確りと抱き締めるとゆっくり歩き始めた。その1歩1歩を確りと踏み締め、その先に足場が在るか無いかを確かめながら歩数を増やしていった。
12歩を無事に進み終わり一呼吸を置いた。眼が見えないことに違和感は無いが、知らない場所を歩くと言う事が一番の恐怖だった。
1歩1歩を踏みしめる度に汗が頬から流れ落ちる感覚。コウヤは久々にその恐怖と向き合っていた。
「取り合えず此処までは大丈夫だった。もしかしたら、この先もずっと道があるのかな?」
コウヤはそんな安易な考えを口にしたその時だった。
「その先は、行かない方がいいよ。3歩も進めば真っ逆さまだ」
何処からか声が聞こえてきたのだ。
「誰かいるの!」
予期せぬ声に驚きながらも、大きな声で尋ねる。
「薄々感じてたけど、やっぱり眼が見えないのかな?」
まるで彼方からも僕が見えていないような口振りだった。
「僕は確かに眼が見えて無いんだよ。君からは僕が見えるのかい?」
単なる好奇心だったがそう尋ねてみた。
「此方からは、君の姿は見えないよ、何せ僕の背中に君は乗ってるんだからね」
その言葉に耳を疑った。その言葉が本当なら僕が今立っている背中の持ち主は、パンプキンの変身したメセルイブリースより、遥かに巨大な生き物と言う事になるからだ。
「僕はコウヤ。コウヤ=トーラスって言うんだ。君は?」
問いに少し不思議そうに答えた。
「僕はバレーナ・モンストロ。君は眼が見えないから、そんなに落ち着いてるんだね。少し残念だよ」
その声は少し悲しそうに聞こえた。
「何で悲しそうなの?」
コウヤが質問した時だった。
「おぎゃぁぁぁ、おぎゃあ」腕の中の赤子が泣き出したのだ。
焦りながら赤子をあやすが泣き止む気配はなく、コウヤは困り果てていた。
そんな時だった。優しい唄がまるで風の囁きのように二人を包み込んだ。その唄は心の奥底にゆっくりと流れ込んでいき。その音色に心は穏やかになり、全ての恐怖と孤独は消え去っていった。
赤子を見ると穏やかな顔をして眠っていた。先程の荒れようが嘘のようだった。
「今のはいったい?」
「そろそろ御別れみたいだね、君達をパンプキンが探してる。コウヤ楽しかったよ」
その声は少し寂しそうにコウヤに語りかけた。
次の瞬間、二人を凄まじい風がバレーナの背中から上に向かって巻き上げたのだ。
「うわぁぁぁ! バレーナーー!」
意識が戻ると目の前には焚き火をするパンプキンとミーナの姿があった。どのくらい意識が無かったのだろうか、辺りは夜になっていた。
「コウヤァァァァ! 心配したのよ? 目を覚まさないから、パンプキンにはキツい御説教をしておいたからね。其れよりも大丈夫、気分は悪くない? 怪我してない?」
ミーナの慌てぶりは凄まじく体を隅々(すみずみ)まで調べていた。
バンプキンは少し申し訳なさそうに此方を見るなり謝ってきた。
「いやあ、良かったです。ポケットの中では体外魔力が使えないのを伝え忘れてしまた。肝を冷やしました。コウヤさん本当に申し訳ありませんでした」
そして二人からあの後の事を聞いた。
ダンジルの町は紅眼がメセルイブリースを呼び寄せたと大騒ぎになり、我先にと商人達がダンジルから逃げ出したらしい。今、ダンジルの中は名を上げようとタライムから賞金稼ぎ。更に討伐に参加するだけで金が入ると盗賊紛いの者まで数多くの猛者達が次々にやって来たらしい。
アグラクト王国からも直ぐに討伐部隊が編成され、今しがたダンジルの中に入って行ったらしい。
ダンジルは戦場の様相を呈していた。1度砂漠のオアシスに戻る事にした一行は、焚き火を消し、コウヤとミーナがワットに跨がりパンプキンは赤子を抱えその場を去ろうとした。
次の瞬間ダンジルの中から悲鳴が聞こえてきたのだ。
一人二人の声ではなく、何十と言う声が入り雑じり、ダンジルの門が乱暴に開けられたのだ。その中からは血だらけの傭兵やならず者達が我先にとダンジルから飛び出してきたのだ。
「くそ! アンデット何て聞いてねえぞ!」
「いいから逃げるぞ! ダンジルは終わりだ!」
逃げる男達は次々にアンデットと口にしていた。
門から出れないのかアンデットの群れは入り口を塞ぐように固まっていた。
ダンジルに現れたアンデットの群れは次々に人々を襲い始めた。
そしてコウヤ達は新たな事実を目の当たりにする。
次回は、ダンジルの恐怖が明らかに!
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