紡がれる世界2
ランタンはエレをコウヤ達の知る歴史より早く魔界へ移動していたのだ。
同様の事が以後、百十数年に渡り繰り返される事となる。
そして、ランタンはシアンに戦魔対戦(後の戦魔祭)にて、義理の息子、カルム=クラフトロとミリオルム=アルミレア(カルムの家庭教師)の2名が命を落とす事になると伝え、シアンの記憶を強制的に呼び覚ましたのだ。
その結果、戦魔対戦では多くの者シアンによる不正なリング外での戦闘により、命に別条は無いものの、試合を行う事が困難になる程度の怪我を負う事となる。
その結果、シアンは戦魔対戦の失格者となり、一晩で多くの戦士と戦い、無傷の勝利を収めた強さから、【残酷なる者】と呼ばれるようになる。
しかし、シアンの行動が戦魔対戦のカードを大きく動かす事になり、結果的に見れば、その後の試合で死者は一人も出なかったのだ。
試合はランタンの圧勝であり、ランタンはシアンが本来行う筈であった戦魔対戦を戦魔祭と呼び名を変更し、更に殺し合いを禁止したのである。
多くの者が否定的態度を取る最中、ランタンの後押しをするシアン。
そうして、次の戦魔祭迄の間に多くの者達がシアンとランタンに挑戦し敗北していく。
そんな日々の中でマトンと源朴の二名がシアンとランタンの元に姿を現すと魔界は大きく動きだしていった。
その後の戦魔祭にて、シアンが魔王になるとランタンはコウヤの部下になる戦士達の生まれ故郷へと旅立っていく。
【ミカソウマの王、コウヤ=トーラスはカラハ大陸のアグラクトに生まれる】
訪れた先で魔法で言葉を大地に刻んで回ったのだ。
その土地で生まれた者達は生まれでた瞬間にその言葉が自然と心に残るようになる。
【アルバーンの王ガンドラ】
【ドワーフの王スレイ=アルバ】
【ヴァイキングの王ヴァルハーレン=ドレイム】
各国の王達は後にコウヤ=トーラスの元へと自然と向かうようになる。
ランタンは多くの歴史を変えながらも、コウヤの作ったミカソウマが存在するように世界を誘導したのだ。
そして、シアンは笑いながら帰還したランタンに在ることを告げる。
「死ぬ筈の私が死ななくなった世界で新たなる魔王を待つなんて不思議だぁねぇ? 記憶は存在するのに実感がないなんて、実に興味深いじゃないかぁッ! うんうん! 早く逢いたいねぇ。コウヤ=トーラス君に」
こうして、カラハ大陸以外の数多の国に後のコウヤ=トーラスの存在が伝えられる。
ランタンはその後、ダルメリアと魔界の平和条約を結び、ミーナの父、ベルモと母であるソルティーの生還に力を注ぐ。
その結果、死んだことにより、記憶の残されたブラッドマンと再会する事となり、ランタンはブラッドマンに対してある提案を持ち掛けたのだ。
「今、貴方が記憶を残したままで過ごしているのは、コウヤさんがこの先の未来を望んだからです」
ブラッドマンを前にそう語るランタン。
「不思議です……ですが、記憶があれば、私はベルモとソルティーを救える。コウヤ王の行動が引き金ならば、素直に感謝を致しましょう」
「ブラッドマン……貴方が敵になるのは些か厄介です。ですが、コウヤさんは貴方の存在に同情していた。大切な者を失えば誰もが歪む……未来を変えたいのなら、一緒に着いて来て欲しいのです。魔界はダルメリアと平和条約を結びました。二人の安全は保証します」
そう告げられたブラッドマンは理解できないと言った表情を浮かべる。
「わかりませんね? 私は二人を守る力があります。なのに何故?」
「ブラッドマン。貴方が誰かを殺めた事実がもし、二人の為だと知れれば、御二人は喜ぶ事はしないでしょう。私は細やかながら、三人の時だけでも、血の臭いが漂わぬ中で生きていて欲しいのです」
ブラッドマンはランタンの顔に鋭い眼光を向ける。
「私は御二人の安全が保証されるなら、従いましょう。後のコウヤ王が姿を現す際にはどのような罪もうけるとこの場で誓いましょう」と口にしたのだ。
ランタンはブラッドマンを会話のみで仲間にしたのである。




