王の帰還4
多くの民に喜ばれ帰還するコウヤ達は英雄と呼ぶに相応しいと皆がそう感じていたからである。
そんな、一行はミカソウマの城の扉を開く。
城内に整列した多くの使用人達がコウヤ達に頭を下げ、大きく声を揃える。
「「「コウヤ=トーラス様。お帰りなさいませ」」」
使用人達の声を聞き、廊下を掛けてくる一人の少女。
手足には機械の義足を装備し軽やかとは言いがたい動きではあるが辛いリハビリの日々を過ごし一人で動けるようになったアイリである。
その後ろからアイリを心配そうに見つめる二人の人影。
そんな二人に笑顔を浮かべながら階段を下りコウヤ達の元に急ぐアイリ。
「御兄ちゃん、皆、お帰りなさいって! 皆泥だらけじゃないですか! 予定変更です」
アイリがそう口にするとメイド達が男女を別々に大浴場へと誘導する。
慌ただしく駆け回るメイド達、予定と異なる入浴に支度を急ぐ。
湯煙が立ち込める大浴場にその身を預けるコウヤ達は久々の湯に感動を現さずにはいられなかった。
そんな大浴場ではゼロやバルゼン、悪魔と言った新たにコウヤの仲間となった者達が入浴するか否かを真剣な面持ちで悩んでいる。
「何してるのさ? 早く入りなよ」と不思議そうにバルゼン達を見つめ声を掛けるコウヤ。
「いや、しかし……我等は身分と立場が違いますので、王と御一緒するに相応しくないと感じます」
バルゼンの言葉にコウヤはその場で立ち上がると大浴場に響くように声をあげる。
「“立場が”とか、身分とか関係無い! 一緒に生きていくなら、風呂では身分を捨ててよ。一緒にお風呂くらい、入れる方が僕は嬉しいしさ」
コウヤがそう語ると、周りにいたミカソウマの兵士達が頷き、湯の中に入るように手招きをする。
男ばかりの大浴場であったが賑わいは無くなることは無く明るい声と笑顔が皆を包み込んでいく。
しかし、コウヤに気を使うように早々に大浴場から上がって行く。
コウヤは久々の湯を楽しもうと考えていたが皆に気を使わせてしまったのだと気づかされる。
最後の一人が頭を下げ、大浴場を後にした事を確認するとコウヤは手足を伸ばし深い溜め息を吐く。
「ハァ……皆の大切な時間だったのに、気を使わせちゃったな……前はもっと気楽に笑えたのに」
そんな中、大浴場の一番奥から微かな波紋が広がっていく。
「いやぁ、王という者は実に孤独だぁねぇ、コウヤも最初はそうだったよぅに、皆も気を使わざるおえないんだぁね」と言う癖のある声が大浴場に響く。
その声の方向に振り向くコウヤ。
「あ、な……なんで、シ、シアン様」
コウヤにゆっくりと歩み寄るとシアンは優しく笑みを浮かべる。
「久しいねぇ、コウヤ。話せば実に不思議なんだぁよ。死んだ記憶があるのに生きてるんだぁね。まあ詳しくはランタンから聞いて欲しいんだぁよ」
「ランタンって! シアン様、パンプキンもいるんですか!」
シアンの言葉に驚きを露にするコウヤ。
そんな最中、更にもう一人奥から姿を現す男。
「お久し振りですね、その節は御世話になりました。コウヤ王」
コウヤはその声に目を血走らせる。
「何でお前がいるんだ! ブラッドマン」
シアンと共に姿を現したのは忘れる事の出来ぬ強敵であった男、ブラッドマンであった。
「御挨拶ですね。と、言いたいですが……貴方の怒りはごもっともです。しかし、其れは我々が敵であった頃の物に過ぎません」
そう語るブラッドマンはコウヤにゆっくりと歩み寄る。
「私は敵で無いことをランタンさんが証明してくださいます。しかし、それでも怒りが収まる事は無いでしょう。その際には罪を償う事を御約束いたします」
そう語るとブラッドマンはコウヤに背中を向け、大浴場を後にする。
コウヤは振り向き様にブラッドマンに殺気を向けるも其れを受け入れるように歩みを止めぬブラッドマンを見て、コウヤは拳を強く握る。
その光景に頷くシアンはコウヤの肩を軽く叩くと「我々も出るとしようじゃないかぁねぇ、アイリちゃんが待っているからぁね」とコウヤを落ち着かせる。
只ならぬ状況でありながら、ミカソウマでは、コウヤ達の帰還を祝う為の席が準備されていくのであった。




