王の帰還1
時空間の中を進むコウヤ達は過去に来た時には存在していなかった数多に別れる光の道を前に歩みを止めていた。
先の見えない眩い光の道。
何れもが美しくその先の空には希望に溢れた光景や平和に歩む人々の姿が写し出されている。
道に悩むコウヤは一旦、時空王に語り掛ける事にしたのだった。
『時空王、姿を現してくれないかな。聞きたい事があるんだ』
コウヤの問い掛けに『御意』と言う返答がなされ、時空間の中に姿を現す時空王。
「御待たせを致しました。して主人よ、どうされましたかな?」
何が問題で呼ばれたのかが理解できぬ時空王の問いにコウヤは素直に考えを語った。
「僕達の来た時には存在しなかった道が増えているんだ、なんとなく道の増えた理由はわかる、ただ僕達はミカソウマに帰る道を知りたいんだ」
コウヤの言葉に首を傾ける時空王。不思議そうにコウヤを見ると質問を口にする。
「失礼ですが主人、多くの悲しみと血肉が散らばる険しき道を今まで生きておられたにも関わらず、同じ世界を望まれるのですかな?」
時空王はコウヤを含む全てのミカソウマの戦士達が悲しみと血塗られた道を歩んで生きてきた事実を理解したうえで問い掛けるように皆に質問を投げ掛けた。
コウヤは多くの失った者達の姿が写し出される時空間の空を見上げる。その場に居た全ての者が同様に空を見上げた瞬間、コウヤはランタンに「皆をこの場に出して欲しい」と呟いたのだ。
ポケットから次々に姿を現すミカソウマの大部隊。
皆がポケットから出た事を確認するとコウヤはその場で皆に選択を迫ったのである。
「今から皆には個人の意思で道を選んで欲しい。誰もがやり直すチャンスを得た今、僕は皆に好きな道を歩んで欲しいと思うんだ……この場にいる皆が多くの犠牲を経験し、辛い過去を耐えてきた。選んで欲しい、皆の意思で進む未来を」
ざわめきが生まれた瞬間、多くの者が空を見上げ、自身の過去と向き合う。
そんな中、ミーナ、ラシャを含むコウヤの妻達はコウヤとミカソウマへ帰る事を決める。
コウヤと歩む事を決めたミカソウマの戦士達も同様にミカソウマへの帰還を決める最中、ランタンだけは直ぐに答えを選べずにいた。
ランタンの見上げる空に写る一人の少女、【アサミ=クレストラ=ランタン】
人間で在りながら、魔族であるランタンの養子として引き取られた存在。
ランタンは悩んでいた、多くを失いながら生きてきた長き人生の中、忘れる事など出来ぬ娘の存在、そんな娘とやり直すチャンスを前に悩まぬ者はいない事だろう。
下を向き、ランタンが苦悩の表情を浮かべる最中、コウヤ、源朴、マトン、ラシャはランタンの背中を押すように声をかける。
「ランタンよ。コウヤ坊は選べと言ったんじゃ! 生き方に後悔は付き物じゃが、変えられるなら確りと変えてこんか」
源朴はそう言うとマトンも頷いてみせる。
「源朴の言う通りじゃぞ、ランタン。妾に話したであろう、救えるならば何でもするとな、妾はランタンが後悔する姿は好かぬのだ! 確りと娘を助けて来るがよい」
ラシャはランタンに指を指すとその指を天高くあげ、アサミ=クレストラ=ランタンを指差す。
そして、コウヤがランタンに抱きつき、一言「ありがとう、ランタン」と涙を流し声をかける。
ランタンは皆の言葉に静かに頷くと頭を下げる。
「皆さん……本当に申し訳ありません……此度の有り難き御心遣い、感謝致します。ですが、また直ぐに御会いできると信じております。コウヤさん、皆さん……本当にありがとうございます」
ランタンを含む数名が愛する家族の為にコウヤ達の元を後にする。
涙の別れではなく、希望を掴む為の別れであると皆が理解し、明るく声を上げての別れとなった。
コウヤはミカソウマへの帰還を望んだ多くの戦士を連れて再度ミカソウマへと歩みを進めていくのであった。




