瑠璃色の希望3
互いの考えと思いを静かに紡ぎ出される会話、流し込まれていく酒の量に比例するようにゆっくりと夜が傾いていく。
夜が眠りにつき、夜空に朝日が混ざり出す頃には皆が寝息を発てる。
太陽が頂点に差し掛かる頃、静まり返ったテーブルに向かい合うランタンとゼロの姿があった。
ランタンの手から手渡された飲物を受けとり、話が開始される。
「いきなり御呼び立てしてしまい申し訳ありません、どうしても貴方と話がしてみたかったのです」
軽く頭を下げるランタン。
「やめてください、僕は貴方に頭を下げられるような存在ではありません」
「此は失礼致しました、何分癖と言いますか、性分のような物ですので、以後気を付けさせて頂きます」
軽く挨拶を済ますように会話を一旦終えたゼロは、ランタンに呼び出された訳を尋ねる。
ゼロのデータに残されるランタンは人間と交渉はしない、魔王シアン=クラフトロの信頼する側近であり、残酷と冷血を併せ持つ魔界の強者であり、ゼロの知るデータでは、人間に対して絶対の絶望を与える者と認識されていた。
「何故、僕を呼んだのかもわかりかねますが、何より目の前に座る貴方が本当に魔界の魔将ジャック王、ランターンと同一人物なのか、僕は悩んでいます」
ゼロの発言に一瞬動きを止めるランタン。
「ヨホホホ、参りましたね? 魔将としての名はとっくに忘れ去られていると思いましたが、まさかゼロさんの口から聞くことになるとは……些か納得いきませんねぇ」
ゼロは自分自身がチェルバランの集めた多くの情報を1つに集めたメモリーのような存在である事実と目の当たりにしている現在の光景が異なる事実を嘘偽りなくランタンに語る。
「僕はある仮定を考えました。チェルバランは本来死ぬ筈のない存在でした。2手3手先まで退路を作り、相手の過去を切り取る存在でしたから、そんなチェルバランは一人の王により討ち取られた、まるでザハールの伝説の再来だ」
「紅眼の悪魔……ザハールですか、確かにそうかもしれません、して、仮定と言いましたがどのような?」
「はい、僕の考えた仮定は……」
ゼロはランタンに語った。
コウヤ=トーラスは本来世界に存在しなかった存在であり、産まれたとしても直ぐに死んでしまう存在だったのではないかと……
その仮定に至りにあたり、ゼロはクレムドル=トーラスの存在を口にする。
ザハールにより、未来に送られた時間を越えし存在であり、チェルバランの存在を知る人物である事を踏まえた結果の推測であり、仮定とするには余りに曖昧な内容であった。
しかし、ランタンはクレムドルと言う名を聞き、静かに頷いた。
「ゼロさん、クレムドルと言う人物は間違いなく私のいた時代に存在しました。魔界に血塗れで訪ねてきた【異端の紅眼】です、ザハールと戦っていたと聞かされた際には誰もが笑いましたが……事実だったのですね」
ランタンの発言は全ての事実を結び付けるものであった。
魔界に辿り着いたクレムドルは残りの人生を魔界で出会った島人の女性と過ごしたとランタンは語った。
しかし、魔界で生活をしていたクレムドルは故郷の地をその眼にする為、妻となった島人の女性と共に魔界を後にしたのだ、魔界では、ザハールの部下が旅立ったと暫しの笑い話になっており、ランタンはクレムドルの存在を鮮明に覚えていたのだった。
「変わった御人でした、魔界に辿り着いた紅眼の皆様は我々を見て、恐怖を眼に宿しますが……クレムドルは違う眼をしていたように感じます」
ゼロとランタンは互いに話した内容を忘れる事に決める。
「ゼロさん、私は知らずして、コウヤさんを助けてきました。此れからもそうする積もりです、本来、コウヤさんを目覚めさせた薬について質問をしたかったのですが、日を改めましょう」
そう言い立ち去ろうとするランタン。
「ジャック王、貴方は本当にコウヤさんを大切にしているのですね」
「当然です、私は今、ミカソウマの王、コウヤ=トーラスに従属する存在ですので、ヨホホホ」
「薬については、アリスさんに聞いてください。僕は方法を見つけただけで、特効薬を完成させたのはアリスさんとリーさんですから」
ランタンはゼロに軽く頭を下げるとその場を後にした。
ゼロはランタンと話す最中、自身が成すべき道を確信する。




