夜を照らす輝き5
ザハールは自信の城に戻ると生き残った紅眼達を広間に集め質問を問い掛けた。
「皆は生きる為に私の元に集い、そして今、私のせいで死地に追いやられた。最後に私が出来る事は皆を別の時間軸に飛ばす事だけだ……選んで欲しい」
突如語られた言葉に困惑、そして、ざわめきが生まれる。
ザハールは考えるまでもないだろうと予想していた。
誰もが自身の命は可愛いものである事実を知っていたザハールは直ぐに禁忌の呪文の発動条件を満たそうと決心を固める。
「ザハール様。俺達は覚悟を決めてます。今更ですがね……俺ら紅眼って連中はザハール様のような武功をあげなければ奴隷とされる運命を辿っていました」
ザハールは自身が幸運であった事実をその時、知ることとなる。
国によって異なる奴隷への考え方に置いて、魔力の高い紅眼の存在を危険視する国は少なくなかった。
ザハールが他国にその名を知らしめる程の武功をあげた事により、紅眼の奴隷化が怒りを買うと恐れられていた事実。
そして、ザハールが大国を滅ぼした瞬間から紅眼の奴隷化が再度開始され、ザハールが各国と争うまでの短い間に魔導士と呼ばれていた紅眼の大量虐殺が各国で密かに実行されていたのだ。
「ザハール様。最後まで紅眼として戦う覚悟です。死に場所くらいは自分達で選ばしてください」
討伐軍が迫る最中、笑顔でそう言う紅眼の男、男の名は【クレムドル=トーラス】紅眼の重戦士であり、ザハールの助けに成りたいと自国を旅立ち合流した一人であった。
「いいのか? 今ならお前も含めて、この場にいる紅眼を別の時間ににがせるのだぞ?」
ザハールに対して首を横に振る紅眼の集団。
「俺達はアンタと運命を共にする。最後まで紅眼の意地を貫く。それに戦えない奴等は皆、別動隊と谷を抜けて魔界へと向かわせた。彼処は種族など関係ないらしいからな、人間より魔族に未来を託さないと為らないとは皮肉な話だがな」
そう言うとクレムドルは自身の得物である【大斧】を軽々と持ち上げ笑みを浮かべる。
「大将のザハール様がしけた面をしてたら、士気が下がります。俺達の為に魔法を使うくらいなら、笑って戦えるようにしてください。俺達の為だと思って派手に死に場所を輝かせましょうや! 全員で討伐軍の奴等を蹴散らすぞ!」
「「「ウォォォオオオオッ!」」」
人数では遠く及ばぬ、総勢3000程のザハール軍、それに対して討伐軍、残り53000の大部隊が正面からぶつかろうとしていた。
そんな最中、圧倒的と思われた討伐に激震が走る。
数で圧倒する筈の戦いにおいて、ザハール軍に討伐軍が大敗を重ねていったのだ。
死に場所を決めたザハール軍の猛者からなる3000あまりの部隊、更に小隊となり、100人の部隊を10としていたにも関わらず、数千の討伐軍を次々に撃ち破り討伐軍の士気を低下させていた。
誰もが耳を疑い眼で見なければ与太話や夢物語と鼻で笑う事だろう。
しかし、ザハール軍は敢えて数人の怯えきった討伐軍の兵を逃がし、士気を低下させていたのだ。
その結果は討伐軍から逃亡者を出させる程であり、ザハール軍と戦った者達は皆が口を揃え、紅眼達を【紅眼の使徒】と呼び怯えた。
更に士気を低下させまいと、帰還した討伐軍の兵を処刑した事により、逃亡者に拍車をかけてしまったのだ。
討伐軍が内部から崩れ始めると同時にクレムドルと他2部隊の合わせて280名の小隊が夜襲を開始する。
月夜に輝く紅眼の輝きとその手に握られた数々の得物が光を放ち、討伐軍の反り血で輝きを鈍らせていく。
4日間の内の3日を攻撃に使い1日を防衛とした討伐軍は既に初期の勢いは無く、ザハール軍の度重なる襲撃により、寝ずの晩を過ごすことになる。
しかし、5日目に入り、冷静さを取り戻した討伐軍は一時的な拠点造りと防衛を整える事に奮闘した。
ザハール軍は討伐軍の拠点完成を敢えて無視しをすると、討伐軍が森から切り出す木々にある細工を施したのだ。
険しい顔を浮かべるザハールであったが、勝利を続けていたザハール軍の兵糧は僅かであり、戦士達も過労と睡魔に限界を既に越えていた。
ザハールの取った策、それは飯炊きをする際に使うであろう木々に魔法を掛け、燃やした際の煙りを吸うと睡魔に襲われるように細工をしたのだ。
その日の夕刻、討伐軍の拠点から飯炊きの煙りが上がる。
本来なら飯に対して一瞬の賑わいを見せる討伐軍に動きはなく、ザハールは策が上手くいった事を確信する。
討伐軍の拠点へと一気に襲撃を開始するザハール軍。
討伐軍とザハール軍の戦に終わりが近づいていた。




