瑠璃色の王2
チェルバランの言葉に耳を疑うミカソウマの軍団、そしてコウヤ。
チェルバランは靄を回転させ球体のような形を作ると楽しそうに声を出した。
「今よりお前達は私が力を手にする瞬間を見る事になる。だが、残念だ……誰一人我が力を目の当たりしても、語り継ぐ事が出来ぬのだからなぁ」
チェルバランはその場に居る全ての命ある者に対してそう言い放ったのである。
ミカソウマの戦士達はコウヤの命令に叛き、逃げる事をやめる。
最初にキャスカ、ディアロッテ、ラシャの3名が方向を変え、チェルバランとコウヤの元へと向かい駆け出す。
ランタンとバルゼンの部隊も同様にコウヤの元へと向かっていく。
シャーデ、カカ、キュエル、ベルミの4名も同様に部隊を引き連れて戦場に舞い戻っていく。
その一方でチェルバランの部下は困惑していた。
ミカソウマと言う大国の予想外の力とチェルバランの力を目の当たりにしても立ち上がり戦い続ける姿は恐怖を上回る悪夢を目の当たりにしているようにすら感じていた。
「チェルバラン閣下ッ! 此のままでは我々はミカソウマの兵に囲まれます、そうなれば勝利は愚か退路すら危ぶまれます! どうか撤退を御命令ください……閣下ッ!」
士気の高まるミカソウマの兵に対して、恐怖により戦意を失う悪魔の兵達。
チェルバランは悪魔兵に掌を向ける。
「最高の戦況に興醒めだ……私の兵に臆病者も弱者も要らぬ! 死んで恐怖から解放されるがいい……愚か者が!」
悪魔兵に向けて放たれる黒き靄、その後方に逃げ惑う悪魔兵の姿を見たチェルバランは更に靄の威力をあげていく。
チェルバランの靄が悪魔兵達を包み込もうとした瞬間、バルゼンが靄の前に立ちはだかる。
巨大な羽で靄を吹き飛ばすとその手に握られた両手斧をチェルバランに向ける。
「チェルバラン閣下……いや、チェルバランッ! 今まで忠義を尽くした部下に向けたその刃、もはや貴様に王を名乗る資格はない」
「バルゼンか、裏切り生き恥を晒す貴様が私に説教とは……裏切りの将が王である私に何を諭すと言うのだ? 貴様の裏切りが我らの同胞を動揺させ、恐怖と絶望を植え付けたのだ! そんな貴様の戯れ言に私が耳を貸すと思うたか?」
チェルバランは失った筈の片手にコウヤの血液を垂らす。
失った片腕が肩から再生していくと即座に両手をバルゼンに向けたのである。
不敵に笑みを浮かべるチェルバランに対してバルゼンは口を開く。
「チェルバラン……愚かな王よ、民がなくして国は成り立たぬ、お前の歩む先に未来は存在しない! 俺が裏切ったと言ったな……貴様なら私が同じように貴様の元に寝返れば生かさず殺した事だろう、我が王はミカソウマのコウヤ=トーラスとなった、愚王が勝てる相手ではないと知れ!」
顔を歪めるチェルバラン。
「そうか……そんなに獣と戯れたいならば構わぬ……私の前に積み上がる屍にバルゼン、貴様も加わるだけの話だ……頭の悪き男と理解していたが……私の甘さを身をもって知った気分だ……貴様から消えてなくなれッ!」
チェルバランは靄をバルゼンに向けて放つ、最初の一撃が遊びであったかのような巨大な靄がバルゼンに向けて撃ち放たれた。
バルゼンの巨大な羽を使い、靄を吹き飛ばそうとする、しかし、バルゼンの起こした風に対してチェルバランは更に靄を撃ち出していく。
その時、無言だったコウヤが口を開いた。
「ベルミ、キュエル、ハーピィー部隊はバルゼン隊をサポートッ! キャスカ、ディアロッテ隊は投降する悪魔達をランタンの元に誘導してッ! ラシャ隊は全体のサポートを!」
その瞬間、コウヤ、源朴、マトンの3名がチェルバランに向けて三方向から斬り掛かる。
其れを把握したかのようにカカの魔法部隊がチェルバランに火炎魔法を放ち盾となっていた靄を吹き飛ばす。
チェルバランが再度、靄を展開しようとした瞬間、ランタンがテレパスでチェルバランの元に姿を現すと大食いのポケットを全開に開いた、ポケットの中から姿を現した魔導銃部隊、そして撃ち放たれる閃光がチェルバランの両手を粉砕する。
「グァァァァッ!」
チェルバランの痛みに苦しむ断末魔のような叫び声。
同時にチェルバランの首にあてられる三本の刃、無惨に地べたに転がるチェルバランのロストアーツ。
コウヤは地面に悶え苦しむチェルバランに対して「終わりだチェルバラン……お前と瑠璃色の王の因縁がどうなのか僕は知らないけど……お前の時代は今終わるんだ」と冷たく言い放つ。
コウヤの元に集まるミカソウマの戦士達、そして力なく座り込む悪魔達。
チェルバランは敗北を喫したのである。
「私が負けたのか……この私が……」
痛みで意識を失いそうなチェルバランから出た力なき言葉、コウヤは無言で頷く。
「認めん……私は……私は死なぬッ! 何度でも何度でも貴様の全てを奪うその日までッ! 私は……私は……アハハハハハ……」
チェルバランの体から黒い靄が噴き出すとコウヤ達は即座に距離を取る。
そして黒い靄がコウヤの血液の入った容器を掴み蓋を開く。
「今からが本番だッ! 貴様をこの場に居る全ての者を消し去るッ! 我が名はチェルバラン……闇の王にして世界を支配する王なりッ! ガハッ……」
その瞬間、撃ち出された閃光。
そして、黒い靄が吹き飛ばされた瞬間、更に1発の閃光がコウヤの血液の入った容器を吹き飛ばす。
「油断大敵ですよ、コウヤさん。ですが……最後の一撃はお見事です」と魔導銃を構えたディアロッテが笑みを浮かべる。
靄が噴き出した瞬間、ディアロッテは誰よりも早く魔導銃を構え“風の魔弾”を撃ち出していた。
それと同時にコウヤは魔導銃を構え落下する容器を撃ち放たのである。
コウヤの一撃は容器だけでなく、チェルバランの心臓を貫いていた。
両手を失い力を出し切れないチェルバランに魔弾を防ぐ力は残されていなかった。
「さよなら……闇の王チェルバラン……」
コウヤはそう言うとその場に倒れ込んだのであった。




