闇を従えし王2
チェルバランはコウヤ達を前に不敵に笑みを浮かべる。
源朴はチェルバランの言葉に即座に反応する。
「よいかッ! お前ら抜かるば全てが無となる。此処が正念場ぞ! 戯けた王が調子にのっておるだ。周りを囲み絶対に逃がすで無いぞ!」
源朴の言葉にミカソウマの兵達が一斉にアトランティスの周囲を円を描くように取り囲み、それに反応した悪魔達が行動を開始する。
両軍の兵士が入り乱れ円を作り出すとチェルバランに対して源朴が動く。
「ミーナよ! アヤツ迄の足場を、コウヤ坊には悪いが……速攻で事をなす!」
ミーナは悩むこと無く、海面に巨木を作り出すと源朴は枝に足を掛け、一気に掛け上がって行く。
余りの事に悪魔達が動揺する最中、チェルバランは腕を前に伸ばした。
「愚かなる者よ。言った筈だ! 我は王であると、何人足りとも王に仇なす事は出来ぬと知るがいい」
源朴に対して向けられた腕から黒い靄が放たれる。
コウヤの脳裏に声が響く。
『あの闇はまずい! 直ぐに退かせるんだコウヤッ!』
瑠璃色の王の言葉。
「源さん逃げてッ! その靄はまずい!」
コウヤの言葉に源朴は意地を語ったのである。
「言われんでも分かっておる! だがな、男は退けぬ時がある、今退けば全てが無となる! 儂を舐めるなァァァァッ!」
鞘から振り抜かれた一太刀が突風の如く闇を振り払うと源朴は更に早く刀を振り続け、チェルバランへと迫っていく。
誰もが源朴の気迫に圧倒される最中、チェルバランはもう片方の腕を前に翳す。
「アハハ、瑠璃色の王以外にもこれ程の者が居るとはな、正直驚いた、だが! 驚かされたとて我が前には無力ッ! 消え去れぇぇぇッ!」
源朴を正面と頭上から靄が勢いを増しながら襲い掛かる。
靄の1歩手前に踏み込み、姿勢を低くする源朴。
「だから、戯けと言われるんだ! どれ程に勢いを増そうが儂の前では無意味と知れいッ!」
全身を使い靄を吹き飛ばすように居合いを放つ源朴。
その瞬間、源朴を襲った靄が球体のように丸くなると源朴を中心に一気に吹き飛んでいく。
堂々たる源朴の姿にコウヤ達だけでなく、チェルバランすらも驚きを露にしていた。
「フッハハハ、なんと滑稽、想像以上の存在だろうか、しかし、足元はそうはいかないらしいな? 実に残念だ」
源朴の吹き飛ばした靄に触れた巨木、丸太ほどある枝が靄に触れた箇所から変色し次第に軋みだす。
再度繰り出されるチェルバランの靄、源朴も足周りを確かめるように爪先に力を加える。
ピキッ……
鈍い音が源朴の足元から聞こえた瞬間、枝が限界に達し崩れ落ちる。
「ぬわぁぁぁ!」
源朴が体勢を崩した瞬間、靄が源朴を包み込んでいく。
咄嗟に走り出すコウヤ、しかし源朴を靄が完全に包み込んだのである。
「源さんッ!」
コウヤの声が叫ばれた瞬間である。
「まだだッ! シアン様に続き、我が友源朴までも失うなど俺が赦さんッ!」
激しく怒りを露にしたマトンが源朴とテレパスで入れ替わると靄を中から吹き飛ばし、レッドシープ本来の姿へと変化したマトンが其処に立っていた。
「真の仇を前に友すらも失えば、シアン様にどう顔向けが出来ようかッ! 調子に乗るなッ! 悪魔の王よ。魔族が真に恐れられる訳をその身で知るがいい!」
マトンは崩れ掛けた枝が崩れるより早く蹴り上がりチェルバランに対して大剣を手に飛び掛かる。
チェルバランは両手を前方に向ける。
「何度、靄を出そうが吹き飛ばすッ! チェルバランよ我が一撃に沈めェェェッ!」
避けようとせずに受け入れるように前に伸ばして両手を広げるチェルバラン。
マトンの大剣がチェルバランの頭上から勢いを殺すこと無く振り下ろされる。
ヒュゥゥゥーーズドッ!
一瞬の攻防戦の最中、マトンは自身の目を疑った。
チェルバランに向けて振り下ろされた大剣は中心から風化するように砕け、吹き飛んだ大剣の先端が勢いを失うこと無く巨木の枝まで吹き飛び突き刺さったのである。
勢いのままに海面に向けて落下していくマトン。
「な、クッ……何がおきた……」
落下していくマトンに対してチェルバランは子供が玩具を壊して遊ぶような笑みを作り出していた。
「無力だ、なんと小さき力か……実に愉快だ! 我が力の前に朽ちる者達よ、愚かという名の大罪をその身に刻み朽ち果てるがいい! “黒き悪夢”」
チェルバランの全身から靄が沸き上がりるとナイフのように形を変化させていく。無数の刃と変化した靄がマトンへと襲い掛かる。
コウヤはマトンへ向けて崩れた巨木の破片を投げるとマトンに触れる瞬間にテレパスを使い位置を入れ換える。
マトンを確りと掴んだコウヤは全身から風魔法を起こし体外魔力を逆流させ竜巻を造り出す。
チェルバランは感心したように“パチパチ”と手を打ち鳴らした。
「実に素晴らしい速度じゃないか、実に素晴らしい……どうだろうか? 私は此れから使えぬ部下達を処分して新たな世界への選別を開始しようと考えているんだが、コウヤ=トーラスに私を倒す事は出来ぬと理解できた筈だ。
源朴の風の如く凄まじい剣速、マトンの全てを打ち砕く豪剣、ミーナの強力な植物魔法。全て私には掠りもしない、まるで子供の御遊戯会のようじゃないか、決断せよ! 弱き王と心中するか、我を新たなる王とし忠義の元に歩むかをッ!」
チェルバランの言葉にミカソウマの戦士を始めとする全ての者達が笑い声をあげる。
マトンがチェルバランに聞こえるように大声をあげる。「悪いな、お前みたいな愚かな存在に付き合うきはないッ! 俺達は既に忠義を尽くすべき偉大な王が居るのだ。愚王に付き合う時間すら惜しいのだよ」そう語るマトンはコウヤに掴まりながらミーナの造った新たなる巨木へと移動すると折れた大剣を手にチェルバランを指さした。
「俺達はお前を絶対に地べたに引きずり下ろしてやる……俺達は負けないッ!」
マトンの言葉に眉を動かすチェルバラン、目は血走り怒りに支配されたように鋭くコウヤ達へと向けられた。




