海の魔物4
戦闘が終わり、コウヤがアトランティスに向けて浮上を開始しようとする。
その時、海底から何かに足を掴まれるコウヤ、次の瞬間、凄まじい力で海底へと引っ張られていく。
瞬く間に海底へと引き込まれるコウヤは急な水圧の変化に全身の骨が軋み、防御魔法を発動し、難を一時的に逃れるも全身に受けた水圧によるダメージは想像を絶する苦痛をコウヤの身に刻み付けたのである。
「ハァ……ハァ……クッ、まだ敵が居たのか」
暗闇が支配する深海の世界は、まるで星の無い夜のように暗く薄気味が悪い程の静けさに包まれていた。
闇の中に微かな光を見つけたコウヤは刀を抜くと光に目掛けて襲い掛かる。
光に近づいたコウヤは光は魚の頭から伸びた触手のような物であり、その先には巨大な口を開けて獲物を待っている魚の姿が微かな光で照らされる。
それに気づくいたコウヤは慌てて攻撃を中止する。
そんなコウヤの行動を嘲笑うように目の前の光が消える。
次の瞬間、コウヤは暗闇の中で巨大な魚に襲われたのである。
巨大な牙がコウヤの頭上から降り下ろされ、地面ごと丸飲みにしようと動く口はコウヤの足元からもその牙を突き立てる。
コウヤは咄嗟に魔導銃を抜くと巨大な口の中に魔弾を撃ち放つ。
巨大魚の体が弾け飛び、深海に一瞬の光が溢れ出すと辺りを囲む無数の巨大な生物にコウヤは目を疑った。
巨大魚達は光に誘われるようにコウヤの周りに集まり出していく。
そして、コウヤは声を聞くことになる。
「私の世界へようこそ……優しすぎる王様……暗闇の深海で何処までやれるかみせてちょうだい、アハハ!」
その声は紛れもなく、コウヤが倒した下半身が大蛇の女の声であり、コウヤは自身が相手のテリトリーに引きずり込まれたのだと確信をした。
「お前はさっきの死んだんじゃないのか!」
その声に嫌悪感を露にしたような低い声で返答する女。
「さっきから、我が名は“スキュラ”数々の無礼な振る舞いは命で購え!」
女は自身をスキュラと名のり、暗闇の中から姿は見せないようにコウヤにそう言い放った。
暗闇の中に蠢く無数の巨大魚達、コウヤの体外魔力も暗闇の中では意味をなさない、また、汚染されてから未だに回復していない海底では魔力が乏しく、魔導銃の発射出来る回数は残り一発となっていた。
絶体絶命と言うべき状況に追い討ちを掛けるように魔力は次第に消費されていく。
テレパスを使えるギリギリの魔力にまで追いやられていたのだ。
コウヤは一旦、海面に移動し魔力を集めてからの反撃を考えていた。
そんなコウヤの考えを悟るように一瞬の隙をついて足元から無数の触手がコウヤを襲い、動きを封じに掛かる。
そして、コウヤの足に針が突き立てられると魔力が次第に吸われていくような感覚に襲われる。
動揺するコウヤを見て笑うスキュラは楽しそうに喋り始めた。
「アハハ、魔力を使うんだよね、最初は最新兵器かとハラハラしたけど、未来の獣と戦いなれた私がアンタ何かに負ける訳が無いんだよ! バカがッ! アハハ!」
スキュラがそう言い、コウヤの前に姿を現し顔を近づける。
「アンタはじわじわと苦しめて殺してあげる、窒息って知ってる? 醜くもがいて死んでいく姿を見せて、私を楽しませて、アンタみたいな威勢のいい獲物が命乞いをする姿は最高に美味なんだよ」
コウヤは最後の賭けに出ることになる。
全身が動かない状況ではあるがては動く、コウヤは触手に手を当てる。
スキュラはその行動に笑みを浮かべる。
「あら? 命乞いかい、可愛いじゃないか、何なら私のペットとして手足をむしって飼ってやろうかしら? ふっふっふっ」
まるで小動物を眺めるような目をコウヤに向けるスキュラ。
コウヤは不敵な笑みを浮かべる。
「僕はお前が好きになれそうにないよ。そうだ、名前、なんだったっけ?」
コウヤの笑みに怒り、更に強く締め上げるスキュラ。
「私をバカにしやがって! 窒息なんか待ってやらない、今すぐに絞め殺してやる!」
コウヤは触手に触れた手から冷気を放ち更に全身から雷魔法を発動する。
一瞬の煌めきと激しい光が深海に輝きをもたらした一瞬、スキュラが悲鳴をあげる。
「ギャアァァァァッ! 体がぁぁぁ」
スキュラの体は氷、更に放電された雷により激しく損壊する。
コウヤは自由になった腕を伸ばし震える指先で魔導銃の引き金を引く。
スキュラの心臓を撃ち抜き、スキュラは完全に沈黙する。
それと同時に巨大魚達が一斉にコウヤ目掛けて襲い掛かる。
コウヤは全てが終わると確信していた。魔力も限界であり、魔導銃は空になっており、刀を振るう力は既に残されていない。
絶体絶命の状況は何も変わっていなかったのである。




