海の魔物2
シー=ブレンの口から出た最古の魔物の名にアリスとリーが驚きを露にする。
「いくらなんでも有り得ません、クラーケンだなんて……私達は此れまでに驚くべき生物を見てきましたが全て人為的に作られた生物でした、今回も何かある筈です!」
冷静にそう語るアリス、しかし、次の瞬間、アトランティスが更に傾くと内部の電気が消え、人工的に作られた太陽光や町の輝きが一斉に闇に包まれていく。
クラーケンと呼ばれる魔物はアトランティスの頭上に移動を開始し、鋭い口についた牙でアトランティスの天井部分を貫こうと攻撃を開始していく。
激しく突き立てられる牙は次第に天井部品に傷を刻むと更にクラーケンはアトランティスを包み込むように体を大きく広げ、巨大な手足を四方八方に伸ばしていく。
絶望的な状況の中に一筋の希望が口にされる。
「予備システムオールグリーンッ! 浮上開始します! 同時にバランサー指導、バラストを全て廃棄、緊急浮上と同時にアトランティス内部の水圧を変化を始動、海面到着後、アトランティス内の濃縮酸素水を排出を開始します!」
そう作業員が口にする。
室長は直ぐに「始動許可、緊急浮上開始ッ!」
深海5000メートル付近まで急上昇をしたアトランティス、同時に浮上するクラーケンに水圧の変化が襲い掛かる。
「グァアァァァッ!」
天井付近から断末魔のような叫び声を思わせるクラーケン。
そんな最中、コウヤは海中に出ていく為の用意を開始していた。
「ある程度、アトランティスが浮上したら僕があの魔物を何とかします。その隙に完全に浮上してください」
コウヤの言葉にミーナ以外の全員が驚きを露にする。
シー=ブレンはコウヤの顔を真っ直ぐに見つめるとコウヤの真っ赤な瞳には自信を感じるも過信といった自惚れを一切感じさせない程に清んだ瞳をしているのを確認して頷いた。
「客人であるソナタに頼らねば為らぬ無力な我等を許して欲しい。しかし、浮上している際には全てのゲートが封鎖されている。どうやって海中に移動する? そして水圧や酸素はどうするつもりなんだ?」
弱々しくそう口にするシー=ブレン。
コウヤは優しい笑みを浮かべる。
「僕は大丈夫です、守りたい人を守る為に戦うのみですから」
そう口にしたコウヤは深海3000メートルに到達した事を報せるアナウンスがアトランティスに鳴り響くと同時に室外へと歩いていく。
部屋の扉が開き、コウヤが室外に出ると静かに扉が閉じる。
その後ろから室外に向かうシー=ブレン。しかし、そこには既にコウヤの姿はなかった。
「いったい何処に?」と驚きの声をあげる。
ミーナは一言、「コウヤは海中に向かったわ。安心して、コウヤは勝つから」
その言葉を裏付けるようにクラーケンから更なる断末魔が発せられる。
海中にテレパスで移動したコウヤは全身を強化し、海水を防壁て囲み足場を作り出し、重力魔法で陸地と変わらぬ環境をコウヤの周りに作り出していく。
自身の周りの海水をアトランティスで使われてる濃縮酸素水に変える事で海中にいながらに環境を全て自身に適応させたのである。
水圧、酸素、重力、全てを克服するコウヤ、魔力を蘇生し始めていた海から体外魔力で吸収する事で補い、一気に海水を踏み込んで進んでいく。
巨大なクラーケンに対して勇猛果敢に切り掛かる。
想定外の敵にクラーケンはアトランティスに伸ばしていた腕を大きく振り払うようにコウヤへと向ける。
「無駄だよッ!」と刀を手に巨大な触手に切りつける。
強固なクラーケンの触手に切り傷がつけられると其処からコウヤは魔導銃を手に取り一気に傷口に当てると引き金を引き連射していく。
クラーケンの腕が内部から膨らみ膨張すると中から裂けるように破裂すると千切れた触手が海底へと沈んでいく。
「グァアァァァンッ!」と声を上げるクラーケンは千切れた触手を見ながら巨大な瞳でコウヤを睨み付ける。
コウヤも同様にクラーケンを凍り付くような冷たい目で見つめると、魔導銃をその瞳に向けて無言で撃ち放った。




