海の魔物
コウヤに好意的に挨拶をするシー=ブレンはファルネオに直ぐに会話と食事の席を用意するように指示を出す。
「すまないがファルネオ隊長、今からで悪いのだが、夕食に四人分の料理とグラスを追加してくれるように伝えてくれ。今夜は実に楽しい時間が過ごせそうだ」
ファルネオは頷くと会釈をしてから室内を後にする。
室内に残されたコウヤ達に気を使うように話し掛けるシー=ブレン。
「すまなかったねぇ、いつもファルネオに頼りきりでね。ついついファルネオに頼んでしまうんだよ。しかし、よく生き残れたものだ、あの最悪の期間をどうやって切り抜けたのか後で聞かせてくれ、実に興味がある」
コウヤはそんなシー=ブレンの笑みに違和感を感じていた。
作り笑いと言うべき、ぎこちなさと歓迎していると言いながらも何処かよそよそしい雰囲気を肌に感じていた。
そんな違和感を確かめるようにコウヤは質問を口にする。
「シー=ブレンさん、質問なのですが貴方は僕達が危険だと感じますか」
ストレートな質問に一瞬、眉を動かす素振りを見せた後、直ぐに返答するシー=ブレン。
「ああ、危機感が無い訳じゃない、だが、世界は変化したのだ、今まで生きていた生物が地上から消え去り、人類は数万人まで減った後、更に減少した……今この地球に残された人類は我々アトランティスに住む者達のみだ、世界が人類を消し去り新たな種をその頂点に据えるのであれば、我々はそれと戦うのみだ」
コウヤの感じていた違和感の正体は人が人ならざる者と対峙している恐怖と不安からの者であった。
シー=ブレンは口には出さないがコウヤを本能的に恐れていた事を確信する。
コウヤとシー=ブレンは互いに敵になりうる可能性がありながらも敵ではないと言う曖昧な状況の中で話を進めていく。
そんな最中、ファルネオが室内に戻ると話はエデンとマチュピチュ、そして世界で起きた大襲撃事件の話題に切り替わる。
事実を整理するファルネオとシー=ブレンはマチュピチュの崩壊に関わった一団とその一団がコウヤを狙った関係についての説明をコウヤに求むたのだ。
コウヤはチェルバランの存在と超人的な力を手にした人類の存在を口にする。
その際にコウヤとミーナが別の時代から移動してきた事実を伏せて話していく。
時間の逆行は世界の崩壊と歴史の改ざんに繋がる恐れがあり、コウヤはシー=ブレンを信頼出来ない事から自分達に取っての重要な情報を漏らさないように話を進めたのである。
「僕達はチェルバランと言う悪魔となった人間達と戦ってきました。多くの亜人種や人間といった仲間が犠牲になり、今もその無念を忘れた事はありません……」
コウヤの言葉にファルネオとシー=ブレンの双方が顔を見合わせる。
「つまりあれだね? マチュピチュを襲い、更にエデンを崩壊させた両方の黒幕がそのチェルバランだと?」確認をするようにコウヤに問い掛けるシー=ブレン。
無言で頷くとコウヤはエデン内部に別の敵がいた事実を語る。
話をするにつれて、険しい表情を浮かべるシー=ブレン。
そして、事件は起こった。
ギッギッギギギギギ……とアトランティス内部に軋むような音が鳴り響く。
海中にいる筈のアトランティスに若干の角度がつくと次第に傾きが激しくなりアトランティス全体が激しく軋み出す。
シー=ブレンは慌てるアトランティス人を落ち着かせるようにファルネオに指示を出すと話し合いを中断しアトランティスの操作室へと駆け出していく。
操作室ではアトランティスのバランス制御が出来なくなり、システムの再起動と予備システムへの変更が行われていた。
「いったい何があった。何故アトランティスが傾いている!」とシー=ブレンが操作室の室長を呼び止める。
「わかりません、いきなり緊急バラストが切り離されてしまい、今は手動でのバランス調整とシステムの再点検を予備システムにより行い空気コントロールと浮上の為のシステム移行をしている最中なんです」
アトランティス内部に不安が過る最中、更に激しくアトランティスが揺れる。
作業員の一人が慌てて操作室長を呼ぶ、その顔は焦りながらも青ざめて見える。
「外部モニターに以上あり、巨大な何かにアトランティスが襲われています!」
その報告に操作室長とシー=ブレンがモニターを確認する。
そこに写し出された巨大な無数の触手を見て操作室長は息を飲み口を開く。
「なんなんだ……この巨大な生物は……此れが全体の一部なら全体は……アトランティスの半分ほどのサイズになるぞ……」
蛸を思わせる巨大な生物をその目にしたシー=ブレンは口を開く。
「伝説の海の魔物、クラーケンなのか……」




