祭りの夜に、
静けさに包まれた広い部屋の中、二人きりの時間を過ごしていた。
「ほら、コウヤ? ゆっくりで大丈夫だから、焦らないで」
「分かってるけど、中々上手くいかないんだよ」
「初めては、そんなものよ? まぁ、私もこういう経験ないんだけどね」
ミーナはそう言い微笑んだ。
「さあ、やりましょう。祭りの時間になったら、皆来ちゃうからコウヤ! ファイト」
「分かってるけど、上手く進まないんだ」
「ほら? コウヤ、力を抜いてゆっくりと力みすぎると反って上手くいかないわよ?」
ミーナに言われゆっくりと力を抜いていく。
「やったよミーナ! 上手くいった」
「コウヤ上手に出来たじゃないそしたら、そのまま止まらずに次に進むわよ」
ミーナと杖に支えられコウヤは部屋の中で歩く練習をしていた。
通常の人間ならば目を覚ましてから歩けるまでに数ヵ月、いや……数年はかかる。
精神状態の際に基礎から確りと体力を着けていたため、リンクしていた身体も筋力が低下することが無かったコウヤは目覚めて数時間で何とかベットから椅子までを支えがあれば、行き来で来るようになっていた。
「コウヤ、大丈夫? 少し休む」
「いや大丈夫だよ、それよりもう少しだけ歩きたいんだ」
そう言い立ち上がろうとした。
「うわぁぁ」
バタンっ
その場に倒れこんだ。
「だ、大丈夫! コウヤー」
流石に一人で立ち上がろうとしたのは失敗だったと反省する。ミーナが泣きそうな顔でコウヤを見ていた。
「僕は大丈夫だから、次はちゃんと立つから」
そう言いベットにしがみつく様にして、何とか立ち上がる。
「ほら平気でしょ! ミーナ泣かないで」
少し足を動かそうとした瞬間、足がもつれた。
慌てて駆け寄るミーナが起き上がらせてくれようとした。
「だ、大丈夫だから……僕はちゃんと立てるよ」
そう口にした顔は泣きそうだった。何が大丈夫なものかと自分の足を見詰めるコウヤ。体が言うことを聞かない事がこれ程、辛いなど考えた事がなかった。
コウヤは今まで眼が見えなくても努力して生きてきた。周囲の音を聴き、香りを感じ、雰囲気をよみながら必死に生きてきたのだ。
使えた物が使えなくなるジレンマ。其がどれほど辛く悲しいことかをコウヤはその時改めて感じていた。
「コウヤ、私がいるから大丈夫だよ。一緒に頑張ろ?」
ミーナが居なかったら、コウヤは暗闇の中に沈んでいただろう。
「ミーナ……頑張るからね、諦めないから大丈夫だよ」
「うん、コウヤが歩ける様になるまでは私が杖になる、コウヤの足になる、ちゃんと支えてあげるから」
暖かい言葉が感情を熱くした。泣き言なんて言ってられない、涙は歩けるようになってからいくらでも流せばいい、やるべきことが沢山あるんだ。そう心で語るコウヤ。
祭りまでの数時間を片時も離れず、隣でずっと支えていたミーナ。
気付けば朝日が沈み、夕暮れが過ぎ、少し欠けた月が顔を出した。
そして獣人達が二人を迎えに来る。
その中にアルタの姿もあり、アルタを呼び止めるコウヤ。
「アルタさん、あの、ありがとうございました」
「いいのよ、ミーナはあれで一途だからさ、泣かせたら承知しないよ?」
そう言ってアルタは笑いかけてくれた。見た目は怖い人が、その笑みはとても優しいものだった。
二人は皆に連れられて、祭りに足を運んだ……と言っても途中まではアルタの旦那であるダンダがコウヤを運んだのだ。
ミーナの家から祭りの会場までは、道が悪いためアルタが頼んでいたのだ。
月夜の晩に、ダルメリアの森に音楽が響き渡り、大樹ダルメリアの前を美しい獣人の舞いが鮮やかに彩る。
広場の中心に舞い上がる炎を皆が囲み、獣人達が賑やかにそして、楽しそうに夜の森を踊り明かす、ダルメリアに音楽と唄声が響く。その幻想的な光景は、コウヤのにとって、忘れられない物となった。
「ミーナ、僕はこの光景を自分の眼で見たかったよ」
「きっといつか叶うわよ、諦めないで、この世界には、まだまだ新しい魔法が生まれているのよ、諦めなければ未来は無限よ」
その言葉は、この幻想的な夜を更に彩る。この世界はきっと、まだまだ美しくなるだろう。コウヤはそう思っていた。
次回は、いよいよ、コウヤが家族と対面します。
感動になるのか、それとも……
コウヤの選ぶ運命は……
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