ダルメリアの恩恵
ミーナが口にしたタイムリミット。しかし、残された時間を知る術は無かった。何時タイムリミットを迎えるかまでは、誰にも分からないとハッキリと口にしたからである。
恐怖を感じていた、自分が朽ち果てる姿なんか見たくない、想像したら駄目だと自分に言い聞かすが、心は其を忘れる事を許さなかった。
コウヤの姿が見えるのはミーナだけであり、もし肉体が朽ち果てたとしたら、ミーナは母さんに何て伝えるかを考えていた。
ーー母さんは泣くんだろうな……泣かせたくない、母さんを哀しませたくない。
そんな事を考えたが、やはり頭の中で考えるだけでは、駄目だと確信した。
「コウヤ、あれを見て」
ミーナに言われ、振り向くとコウヤの身体に獣人が花を置いていった。そして、獣人は手をかざし身体に魔力を流し込んだのだ。
「身体が暖かい! どういう事なのミーナ教えて」
「獣人は皆、産まれながらに魔力を相手に渡すことが出来るの、その為に一時期は乱獲されて奴隷のように扱われた時代もあったのよ」
ミーナの言葉に驚いたと言うより、ショックだった。今でも奴隷制度は至る国に存在しているが、身近に存在していた事実と現実に言葉を失った。
「…………ミーナは…その、人間が憎い?」
その質問にミーナは悩まずに即答した。
「憎くない。と、言えば嘘になるわ。でもね、だからこそ、手を取り合って過ちを正していかなければいけないの。そうでないなら、この世界に生きる全ての者が殺し合わねばならなくなるわ」
その言葉は重く、そして真っ直ぐだった。
ミーナはどんなにバカにされようが罵られようが、学校に一番最初に行き、どんなに態度が悪い生徒も治してきた。
全ては互いに歩み寄り助け合いたいと言う想いからだったのだ。
「僕を助けるのも、人間と手を取り合っていくためなんだね……」
自分が特別だと勘違いしていた自分が恥ずかしくて仕方ない……そう表情に出ているコウヤ、しかし予想外の返答が耳に入ってきたのである。
「君だからだよ、私が此処までするのは君だったからよ、勘違いしないでね他の人なら私も流石に諦めてるわ」
「え?」
「さあ! コウヤ、話は此処までよ」
そう言うと此れからの流れを話始める。
今のコウヤは、確かに身体と別れているが繋がっていない訳では無いのだ。
精神のコウヤが体を鍛えれば、肉体にもそれが反映すると言うのだ。
ダルメリアの意識がそれを可能にしていた。
この森の意思は全てダルメリアと共にあり、その樹に包まれているコウヤもまたダルメリアの加護の恩恵を受けていたのだ。
その話を聞いて、体力をつければ肉体も弱体化しないと言う事実が明らかになった。
更に精神状態でも、魔力を使い同時に体外魔力も使い続ければ魔力の修行になると言う事だった。
その日、ミーナに言われ睡眠を取ることになった。精神には睡眠は必要ないのだが肉体は睡眠を取らなければ衰弱すると言われたからである。
精神状態で睡眠を取るのは凄く不思議な体験だった。
そして、ダルメリアに来て初の朝がやって来た。
ミーナが来る前にダルメリアにどうしても、御礼を言いたかったコウヤは、一人ダルメリアに向かい歩みを進めていく。
ダルメリアに意思がある事が分かったのだから挨拶をしたい。御礼を言いたい。素直にそう思ったのだ。
ダルメリアの側まで行くと、赤い花を持った小さな女の子が身体の前に立っていた。
「こんな小さな女の子まで、来てくれてたんだな?」
そう言うと、その少女は此方に笑みを見せたのだ。
そして姿が見えなくなっていった。
お化けでも見たのかもしれないと考えたが、冷静に考えたら、体外魔力を使える獣人なら、ミーナのようにリンクする事もあるだろうと思い、深く考えなかった。
ダルメリアに挨拶を済ませ、ミーナが来るのを待つ間も体外魔力を使い森の隅々を見渡すように魔力を広げていく。
新たな発見は体外魔力に自身の魔力を合わせられる事、その際に精神は移動せずに景色を見ることが可能だと言う事だった。
これにより精神状態でも移動せずに体外魔力を使える事が分かったのだ。
更に驚かされたのは体外魔力の範囲であった。ダルメリアの森全てを見渡してもまだ余裕がある程、体外魔力を広げられるようになっていたのだ。
身体には、凄い数の黄色い花が置かれていた。
その中に赤い花が1本あった。
「僕の為にこんなに、獣人の皆にも感謝しなくちゃ……本当に嬉しいや」
ーー僕はまだ死ねないんだ。
ミーナの姿が見え。その日から特訓が始まった。
やはり、精神状態での歩行や走ったりするのは、かなりキツかったが段々とペースを上げることで克服していった。
それから魔力のコントロールを基礎からミーナに習ったのだ。
学校で教えてもらう物と違い、魔力のコントロールがどれ程、繊細かを教えて貰った。
河原に移動してからミーナと実際に魔法を使ってみる事になった。
「コウヤ、普通に火系魔法を使って」
普段通りに火が出ると次にミーナが言う通りに火系魔法を使ってみる
「コウヤ、小さな火を段々大きくするようにイメージを膨らましてみて、その炎が巨大な渦を巻くようにイメージをするのよ、出来たら放ってみて!」
言われるようにイメージをしてから、火系の魔法を使ってみる。
凄い勢いで巨大な炎が掌から現れたのだ。
それには、流石にミーナも慌て急ぎ炎を消火した。
「君はやっぱり凄いよコウヤ!」
ミーナが笑った、とびっきりの笑顔がコウヤの心をドキッとさせた。
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