戦いの中で2
コウヤはミーナの口からロナの名が出た瞬間、自身の手を“グッ”と握り、拳を作る。
「話し合えば……分かるかも知れない、ロナを助けられるかも知れないんだ……」
「それは構わないわ! 問題があるとするなら、ロナがその気がなかった時、どうするつもりかなのよ!」
コウヤの言葉に対して答えを求めるように問いかけるミーナ。
数秒にも満たない時の流れがコウヤには何分にも感じられる息苦しくなる瞬間、コウヤ自身、答えなど無かった。
そんな重い空気に変わろうとする二人の間を割るようにカカが口を挟む。
「あのさ、私はそのロナって娘の事をよく知らない。でも、行かなくちゃわからないなら行きましょう。あと、最悪の場合はコウヤが殺せなくても私が殺るから、其だけは言っとくわ」
一瞬で話の主導権を拐うカカは粉塵が舞い上がった海岸を目指し走り出す。
その後ろにはキュエルとベルミが続き、その後をミーナとコウヤが追い掛けていく。
次第に地面を通して伝わる震動にコウヤの顔に焦りが露になる中、ミーナに対して更なる状況報告が入る。
内容は戦闘中の小隊からの連絡を受けたバーバリアンの精鋭部隊と他の四小隊が海岸に向け移動したと言う内容であった。
ミーナからその報告を受けるコウヤ。
「ごめん、ミーナ。ロナは僕の大切な幼馴染みなんだ。助けたいんだ」
そう言うと即座にテレパスを使うと海岸に向かうコウヤ。
「あ、コウヤ! もう! 皆、急ぐわよ」
慌てて移動するミーナ達、そして海岸に先に到着したコウヤは眼を疑った。
目の前に広がっていたは肉塊が無造作に散乱しており、海岸を変わり果てた仲間達が無惨なままに真っ赤な血が砂を染めている。
その中心に全身を漆黒の鎧で覆ったロナであろう存在が反り血を浴びた状態で立ち尽くす光景にコウヤは自分の考えの甘さを痛感する事となる。
漆黒の黒騎士を思わせるロナの両手には鋭い鈎爪の刃が3本ずつ付いており、その刃が切り裂いたであろう仲間達の血が地面に滴り落ちている光景に既に疑いの余地は無い。
ロナがコウヤの存在に気付くと無言のままに体の向きを変える。
両手を広げながら一歩踏み出した瞬間、有り得ぬ事態がコウヤを襲う。
砂の上を滑るように高速で移動するロナ。
コウヤの動揺した一瞬の隙をつき、懐目掛け、鈎爪を突き出す。
間一髪で回避するコウヤ、しかし、身に付けていた服には綺麗な三本の切り傷が確りとその鋭さを物語るように刻まれている。
「本気なのか、ロナ!」
咄嗟に叫んだ声、そんな叫びすらも切り裂くように次々に攻撃を繰り出すロナに防戦一方のコウヤ。
コウヤは頭の中で決断を迫られていた。
ロナを殺す以外の方法が見つからなかったからである。
既に多くのミカソウマの者達が敵であるロナの存在を知りすぎたのだ。
今、コウヤと対峙するロナの存在を前に説得が叶わない事は誰の目にも明らかであり、命を脅かす存在となったロナに必死で叫ぶコウヤの声は届く気配すらない。
覚悟を決める一秒に満たない時間ですらも攻撃を繰り返し続けるロナにコウヤは距離を取りながら、火炎魔法で牽制しつつ距離を取る。
激しい炎を切り裂き姿を露にするロナの一撃がコウヤの腕を掠めるとそこから更に激しく斬撃の嵐が起きた化のように肉体に無数の切り傷を刻む。
ロナの鈎爪がコウヤを捉え振りかざされる一瞬、無意識に束を握ると片手で鞘を握り、一気に振り抜いていた。
その一撃を回避するとロナ、再度攻撃を開始する。
そんなコウヤとロナの戦いを目の当たりにし、ミーナ達が加勢しようと動き出した瞬間、大声が海岸に響いた。
「これは僕の戦いだ! 皆、お願いだから、手を出さないで……」
刀でロナの斬撃を捌きながらそう語るコウヤにミーナは無視して加勢しようと試みるが、その行動をカカ、キュエル、ベルミに止められる。
「待ちな、コウヤが手を出すなと言ったんだ……悔しいが今は待つんだミーナ」
「「私達はコウヤ様が勝利する事を信じてます!」」
三人の言葉にミーナは悔しそうに口を開く。
「コウヤは、優しいの……ロナに負けないのは私が一番良く分かってる。だからこそ、コウヤにこれ以上、何も背負って欲しくないの……」
そんなミーナの思いを打ち砕くように互いの刃をぶつけ合う二人の姿にミーナはその場で涙を流し見守る決意をかためた。




