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亜人と歩む ~瑠璃色王のレクイエム~  作者: 夏カボチャ 悠元
第三部 光の先に見える物
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過去への決別2

 地に膝を付いたガザに対して剣を振り上げる死人(元副隊長)、ガザにその一撃を躱す力は既に無く、最初の一撃が義手の回路を切断し無事な方の手で受け続けた猛攻はガザの手を痺れさせ既に手の感覚すら無くなろうとしていた。


「まさか、仲間に殺される事に為るなんて、まったく……浮かばれねぇですね」


 ガザは覚悟を決めていた。

 自身のミスで仲間を危険に晒したくないと考えたのである。


「一人で何て逝かせないから安心しなよ、お前と生きれて、最高の時間を手にしたんだからな、何時もすまなかったと思ってるんですぜ……ですが、お前さんは違うんだ、見た目は同じだが違う……」


 ガザは最後の力を振り絞ると剣を握り締め、元副隊長の一撃に合わすようにして前に突き出した。


 その手には既に力は無く、突き出した筈の剣は無惨に手から溢れ落ちるように地面に刃を(うず)めた。


 全てが終わると確信するガザ、静かに笑みを浮かべると一言「悪かったなもう一人で行かせない……」と呟いたのである。


 その数秒にも満たない刹那の時の中にガザは今までの旅と戦いの日々が全身に駆け巡る。


 走馬灯と言うには余りに短く、思い出と言うには寂しすぎる記憶、ガザはこれが最後であると確信する。


「コウヤの命令無しに勝手に諦めてるんじゃねぇッ!」


「そうだ、ガザッ! 生きる限り諦めるな! コウヤ殿に叱られるぞ!」


「我ら、四将はコウヤ様の盾であり剣である! 一人も失うことはこのギリオン認めぬぞ!」


 一斉に戦場を駆け抜けてきたテルガ、ボルト、ギリオンの三名が手に持った武器を一斉に突き出すと左右と後ろから刃が死人(副隊長)の体を貫き、ガザは感覚の無くなり掛けた拳を握り締め、涙を浮かべた。


 誰もが正しい決断であると言えぬ状況であったが、ガザが死んでいたとしても結果は変わらなかっただろう。


「すいやせん、皆さんに無様な姿を晒しました」


 ガザの言葉に三人は頷くと周囲の敵を払いのけながらガザを回復出来る場所まで運んで行く。


 ガザの傷は深くは無いが生身の足と脇腹に受けた傷からの出血が酷くボルトが急ぎ応急処置を行う。

 もし、あと数センチ擦れていたならばガザの出血は致死量に達していただろう。

 ボルトの手際の良さが一命を取り止めた瞬間であった。


「ボルト、ガザは無事なのかッ!」


「ああ、テルガ、もう心配要らない」


 テルガとボルトの会話を聞きギリオンもホッと安堵の表情を浮かべる。


 しかし、時を同じくして、ヴァルハーレンとブラッドマンの戦いも終わりを迎えようとしていた。


「いやぁ実に素晴らしい。なんとタフな方なのでしょうか」


 そう語るブラッドマンの前には全身から血を流すヴァルハーレンの姿があり、腕には大きな穴が無数に空き、巨大な腕は皮と僅かな肉で繋がっていた。


 ヴァルハーレン自身も今の状況を不思議に感じていた。

 僅かな隙があったのか……或いは相手が自身より勝っていたのだろうか、数多の言葉がヴァルハーレンの脳裏に浮かぶ。


「可笑しなものだ……死ぬかも知れないのに、こんなにも血がたぎるなんてな!」


 ヴァルハーレンとブラッドマン、互いに向き合った二人、片方は若干の傷を受けるも笑みを浮かべ、片方は全身を無惨に抉られたような傷に包まれている。


 ヴァルハーレンとブラッドマンの戦いは始めヴァルハーレンの猛攻から始まった。

 しかし、ブラッドマンは全てを躱すと自ら皮膚を裂くように爪を立て、血をヴァルハーレンに浴びさせると、血液が酸のようにヴァルハーレンの肉体を溶かしたのである。


 ヴァルハーレンは悩むことなく、自身の肉体を切り取り、今に到る。


 そして、ブラッドマンの作り出した悪夢のような状況がヴァルハーレンを更なる死地に近づけて行く。

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