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亜人と歩む ~瑠璃色王のレクイエム~  作者: 夏カボチャ 悠元
第三部 光の先に見える物
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悲しきクレアルバディア共和国2

 暗い室内に光るランプの揺めき、クレアルバディア共和国、国王 アルタラム=クレバディアの首ギリギリで止められる黒光りする刃。


「殺さないんですね……僕はてっきり、ゴホっゴホ……」


 死を覚悟していた……死を望んでいたと言うべきだろう。

 幼いアルタラムは震える事もなく、ただ、コウヤの刃をその身に受ける覚悟を決めていたのである。


「君は死にたいの?」


 その一言にアルタラムは首を静かに横に振る。

 その目は悲しみに包まれながらも仕方ないと言う諦めで溢れている様にコウヤは感じていた。


 “クレアルバディア共和国”第18代国王、アルタラム=クレバディア。


 幼くして国王を()()()()()悲しき王である。


 アグラクトと同盟となったクレアルバディアであったが、裏では大きな暗躍が動き出していた。

 コウヤの知らなかった真実がそこに存在していた。


 クレアルバディア共和国17代国王をアグラクトは危険視し、それを知った大臣達により、17代国王は人知れず暗殺されたのである。

 事実は知られぬままに、病に倒れたとされ、非公開のままに王位は18代国王であるアルタラムへと引き継がれる事になる。


 大臣達は最後まで自分達の身を一番に考えアルタラムを隠れ蓑にする事を考えたのである。

 アグラクトの怒りを買えば、アルタラムを差し出す事も視野に含まれた黒い計画の歯車として嵌め込まれたアルタラムは暗い室内で数年を過ごすことになる。


 日の光が届かぬ締め切られた室内、生きられる最低限の設備と食事。


 次第に体調を崩し寝たきりになる自身の姿、逃げ出そうとしなかった訳ではない。逃げられぬ様に繋がれたベッドの足から見える鎖。王でありながらに囚われ人となっていたのだ。


 話が終わるとアルタラムは息を吐き、小さく呟いた。


「大臣達が逃げたなら、責任を取るのが国王の最後の役目だから……」


 コウヤは無言で頷き、刃を振動させ突き刺す。

 そして鎖を真ん中から砕きアルタラムを自由にしたのである。


 足首に残る金具が長きに渡る拘束の日々を物語る。


「歩けるかい?」と、コウヤが尋ねるとアルタラムは頷いた。


 そんな二人の元に駆け付けるボルト達、コウヤはボルトにアルタラムへ肩を貸すように言うと直ぐに戦場に向かう。


 既に勝敗は決している事を理解しながらも、コウヤは天高く舞い上がると声を戦場に轟かせた。


「今より! 武器を捨て投降する者は殺さないッ! 両軍、武器を収めよ。死に急ぎたい奴は僕自ら相手をする!」


 それは戦場に死を覚悟していた者からすれば救いであり、多くの一般兵は武器を地面に手離し投げ捨てた。


 コウヤはクレアルバディア共和国の真実を語り、囚われの国王を救い出した事を告げる。

 そこからは大臣一派に与した反乱分子の一掃のみを行い、旧アグラクト跡地を拠点とするキリシマの元に使者を向かわせる。


 キリシマは知らせを聞き急ぎ、クレアルバディア共和国へと姿を現した。


「キリシマさん、いきなりですみません。手紙の内容なんですが?」


 コウヤは使者にキリシマへの手紙を託していた。


 内容はクレアルバディア共和国の国王と共にカラハ大陸の未来の為に歩めないかと言う物であった。


 コウヤの行動に危機感を募らせていたキリシマであったが、その知らせに真意を確かめたいと考え、急ぎ駆け付けたのである。


 キリシマは尋ねた。今回の行動が本当に必要だったのかを、クレアルバディア共和国をどうするのかと。


「僕はアグラクトのような愚かな戦争をする国を減らしたいだけです。そして、クレアルバディア共和国をなくし、新たな国となれば言いと考えています」


 キリシマはそれを聞き、ある一言を口にしようか迷っていた。それは『傲慢だと』だが、キリシマはコウヤにそれを告げる事はしなかった。


 コウヤは口にした。自分達の行った戦いに多くの悲しみが生まれ、新たな戦禍を巻き起こしたと、だからこそ……平和な世界を創る為に話し合い歩み寄る必要がある事実を知ったと。


 キリシマはコウヤの申し入れを受け入れ、“ルークス・ステラ”(星の輝き)はその日を持ち、クレアルバディア共和国と共に歩む事をアルタラム、そしてコウヤに誓う。


 しかし、それを遠目で確認したダークエルフの王 エデル=ガルデンは絶望にも似た不快感に苛まれていた。

 人間を滅ぼすと信じていた英雄の裏切り、それは言葉に出来ぬ闇をエデルの心に充満させていく。


 新たな平和、新たな戦禍、全ては人間達が巻き起こした傲慢から始まった。


 その連鎖は止まること無く、静かに広がり続けていくのである。


 エデルの存在を知らぬコウヤとその存在を英雄として憧れたダークエルフの王となった青年。


 時代は世代を代え動き出していく。その先にある光景は光なのか、闇なのか等誰にもわからない。


 並んでは噛み合わないパズルのピースのように1つの世界に生まれた彼等はその運命にひたすらに向き合い生きていく。


 コウヤを遠くから睨むように見詰めるエデルはその日、コウヤへの憧れを捨てた。そして、自身が描いた英雄へとコウヤを導く事を心に誓う。


「偽りの英雄にさせて為るものか……俺が世界を正しく導いてみせる、そして、コウヤ=トーラス……俺が貴方の眼を覚まさせてみせる」

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