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亜人と歩む ~瑠璃色王のレクイエム~  作者: 夏カボチャ 悠元
第三部 光の先に見える物
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“レクイエム”6 思いが交差する時

 トルモニとコウヤの一戦、皆が見守る中、高みの見物を決め込んでいた者達がいた。アルディオとロナの部隊である。


「御兄ちゃん本当に良かったの? トルモニ負けちゃったみたいだよ」


「いいさ、知将なんて肩書きに踊らされて愚かな末路を辿るのは至極当然だ。本来ならいい戦いになる筈だったが興醒めだ」


 アルディオの言葉に頭を悩ますロナ。その顔は渋く煮えきらないといった表情を浮かべていた。


「トルモニを見殺しにした事を怒ってるのか?」


「そうじゃないけど、なんか納得いかないの、コウヤ=トーラス……私は何でこんなにアイツに勝ちたいんだろう」


 ロナの深刻そうな表情を見てアルディオが笑った。普通なら単なる幼馴染みであったのだから、互いに殺し合う必要等無いのだ。


 アルディオは出来る事ならば、ロナのコウヤへの歪んだ思いを取り除いてしまいたいと考えていた。

 そんな思いとは裏腹に次第に強くなるロナの戦闘意欲に頭を悩ます日々を送ってきていた。


 ロナの心に残るコウヤの印象、悲しくも負け続けた日々と悔しさが色濃く残り、そこに裏切られたと言う思いと裏切ったと言う思いが交差し複雑に絡みあっていた。


 アルディオの優しき思いと苦悩にも似たロナの心境、全てが大きな時代と言う流れに翻弄されていた。


ーーーー


 知将軍敗北……それを聞き怒りに撃ち震える一人の男、世界を支配しようと狂気に走ったアグラクト王は恐怖を感じるようになっていた。


 大陸を埋め尽くさんとした死人の軍隊の大半を失い、バライムとセテヤの二大大陸の進行は既にカハラ大陸に及び、第三勢力の支配地域(島々)への進行、自身の筋書きに無かった物ばかりであった。


「何故だ! バライム大陸とセテヤ大陸は何百年も互いに干渉せずに生きてきた筈だった、何故今になり助け合える」


 手にもったグラスの酒を飲み干し乱暴に壁に叩きつけるも答えなど出る筈も無かった。


 怒りに狂いそうなアグラクト王、そんな姿を笑いながら突如姿を現した一人の女。


「陛下、大分ご立腹ですわね?」


「おおお、レストか、実に厄介な問題があってな」


 レストと呼ばれる女、美しく長い赤毛と美しく整った顔立ちな青い瞳のこの世の物とは思えない美しい姿に黒のドレスを纏っている。


「陛下の頼みならば、我々は力をいくらでも御貸し致します。約束さえ果たして頂けたなら……」


 そう言うと慎ましやかに笑って見せる。


 女の言う約束、それは亜人の一掃、世界の完全なる人間の支配する世界を創る事であった。


 女は現アグラクト王が前国王から「王位を譲る気はない」と言われたその日に姿を現し、アグラクト王の耳元で小さく囁いたのだ。


「貰う必要ないわ、貴方が奪えばいいのよ、力を貸してあげるわ」


 初めは信じてなどいなかったアグラクト王も次第に死人の力を知り、魅了されていく。


 最初は試すように小さな村を襲わせ、次に大きな物を順番に襲わせたのだ。


 そして、頃合いを見計らい自身の父である前王が弱っていく最中、療養を理由に投獄し、王となった。


「従わぬ者には死を」そう語ると城内からは鉄の香りが溢れ出した。


 反攻が無かった訳ではない。全てを早急に解決したのだ。

 反乱勢力の根絶は一族全てに及び、あっという間に国内は新たなる組織へと変化した。


 六将軍の結成、カラハ大陸の統一、何もかもが上手く行く筈だったが今になり大きく揺らぎ始めていた。


 知将トルモニの戦死と知将軍の壊滅、それにより動き出した残りの五将軍のうち、冷将(れいしょう)猛将(もうしょう)魔将(ましょう)

、の三将軍がコウヤを討ち取らんと急ぎ向かっていた。


 そして、残りの二将軍は互いに睨み合い対峙していた。


 一人は炎将(えんしょう)と称される男、名はボルガ、生まれはカラハの辺境であり、アグラクトでの通称は“豪炎のボルガ”町を幾つも焼き払い、捕らえた際も大量の捕縛部隊から死者を出した程の危険人物であり、本来ならば即死刑にされるべき男であった。


 そして、もう一人の人物、死将(ししょう)とされる男こそ、アルディオであった。

 アルディオは前死将の大敗を切っ掛けに新たに任命されたばかりであり、六将軍の中では厄介者とされていた。


 そんな二人が相対している理由は一つ、炎将ボルガを葬る為であった。


「アルディオ、俺を呼び出して何のつもりだ?」


「分かってて来たのでしょう、わざわざ死将などと言う肩書きを背負ったんですから、目的は果たさせて貰う」


 アルディオがそう語り終わる寸前にボルガが動いた。

 全身から炎をたぎらせ、アルディオ目掛けて襲い掛かる。


 それを合図に炎将軍が動き出し、互いの兵が戦闘を開始した。

 ボルガの兵は皆、犯罪者から構成されている。

 現死将軍はアルディオの選んだ人員で構成された新部隊であったが炎将軍を瞬く間に制圧していく。副将として戦うロナの活躍もあり、炎将軍の副将を早々と討ち取って見せた。


 アルディオとボルガの一騎討ちも激しさを増すが、アルディオの新たなる力、ロストアーツ“死王の鍵”を使い作り出された死人達が次々にボルガを襲っていく。


「くそ、邪魔くせぇ!」


 幾ら燃やそうとも現れる死人、それは次第に手足に絡み付き、ボルガの自由を奪っていった。

 そして、ボルガの指からロストアーツの指輪“火竜の息吹”が死人により噛み千切られると勝負は一瞬で決まった。


「単なる死を与える気はない。自分が行った所業を知り、永遠に苦しめボルガ」


 死王の鍵が使われた瞬間、大気に亀裂が現れ、門が姿を現した。

 禍々しい巨大な鉄の門が開かれると中から燃え上がる炎と共に無数の腕がボルガを引きずり込んでいく。そして、炎将軍の兵士達も同様に伸びた腕に掴まれて次々に門の中に引き込まれていく。


「まだだッ! アルディオーー! くそおぉぉぉ」


 “バダンッ”と、門が閉じ亀裂がなくなるとそこには炎将軍の姿は無く、全てが呆気なく幕を閉じた。


「全軍、今より要塞都市ダルベルガに向かう」


 アルディオ率いる新死将軍は急ぎ三将軍です向かう要塞都市へと歩みを進めるのであった。


 そして、レストも静かに自身の駒を要塞都市ダルベルガへと進行させていた。

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