コウヤの危うい生活
バライムに帰還して、二週間が過ぎた。その日、ガザがコウヤの元を訪れていた。
「コウヤ王、今日からコウヤ王の親衛隊に入ることになりやした。心身共に忠義を尽くし命尽きるまでお供致しやす」
ガザの利き腕の義手が完成し、リハビリをしながらになるが業務などに参加する事になったのだ。
そして、カカは言い付けを守り問題なく生活している。勿論自由行動は出来ない。まだ信用するには早いとカカ自身も納得し今はアイリのリハビリの手伝いをしたり、身の回りの世話をしている。
カカ自身も今のポジションを気に入っている。
そしてこの二週間の間……コウヤはある悩みを抱えていた。
「ええぃッ! コウヤよ。何故また身近に、おなごを増やす!」
ラシャの妬きもちが始まるしかし、今回はラシャだけではない。
「コウヤさんが女好きの足らしなのは理解しました。それでも? 少し多すぎませんか?」
ディアロッテまでもがコウヤにそう言い、溜め息を吐いた。
コウヤはカカを含めて全員と話す事になり、重たい空気と鋭い目線が突き刺さる最中、話し合いが開始する。
当然カカへと質問の嵐が襲っていく。
カカは皆の質問に悩んだが、一言口にしてある行動にでた。
「下らないわ、そんなにコウヤが気になるなら何故、既成事実をつくらないの?」
立ち上がるカカはコウヤの顔を押さえて大人の口付けをかわした。
コウヤが真っ赤になり、言葉を失うと「私は見た目が幼くても二十歳よ。欲しいものは手に入れる性格だから」と宣戦布告した。
そして夜になるとコウヤの寝室の前で始まる防衛戦。既に寝不足の限界に達していた。
「このままだと不味いよ……なんでこうなるかなぁ」
「決まってるでしょ? コウヤがハッキリしないからよ」
今、コウヤは“カフェこばやし”にテレパスで避難していた。
以前ミーナが働いていた事もあり、ミーナと二人でやって来たのだ。
「でもさ、今まで通りじゃダメなのかなぁ……最近寝不足なんだよ」
コウヤはそう言うと椅子に座ったまま寝てしまった。
次に目を覚めると目の前に全員が集まってコウヤをニコニコと見守っていた。
状況が分からぬままミカソウマに戻ると静かにしてる全員の姿。
余りの静けさに寧ろ恐怖すら感じる。
城の中には何故かメイドの姿がなく、食堂に向かうコウヤは不思議に感じ警戒していた。
食堂やって来たアイリと護衛のボルトの姿に安心したが皆の姿は無かった。
「ねぇ、ボルト? なんかあったの?」
コウヤの質問に困った表情を浮かべるボルトから察したコウヤは何かあると思い更にボルトを追求しようとするが、アイリが「ボルト、ダメよ! ワンちゃんもボルトに聞いたらダメなんだよ?」と何故か嗜めなれる形になり、話が中断された。
そして、食事が運ばれてくる。配膳車を押して来たのはメイド服を着たラシャであった。
「な、ラ、ラシャ?」
余りの驚きに声をあげるコウヤ、しかしラシャは黙々と食事をテーブルに並べていく。
「余り、見ないで欲しいのじゃ……はい。コウヤ様どうぞ。アイリ様もどうぞ。ボルト、冷めぬうちに自分で取りに来るがよい」
ボルトに対する反応は間違いなく正気だった。更に飲み物を運ぶキャスカもメイド服を着ている。訳が分からずにボルトの方を見るコウヤ、しかし、コウヤより先にボルトを睨み付けるキャスカの視線に下を向いていた。
食事が配られるも余りの動揺からスープすら喉が通らない状況。
「コウヤ・さ・ま。スープ、冷めちゃうよ温めてあげるわ」
カカが横から軽くスープを温める。ラシャ達よりも、きわどいメイド服にコウヤは目のやり場に困りながら、食事を続けた。
全ての料理が食べ終わる頃、厨房からシェフが上がってきた。
シェフハットを手に持つディアロッテとミーナの姿が其処にはあり、軽く頭を下げた。コウヤを更に混乱させるが、訳は誰も話さないまま、皆が退散した。
ボルトを誘い風呂に向かうコウヤは何とか話を聞き出そうと考えていた。しかし、トイレに向かったボルトは帰ってこなかった。
「参ったなぁ、ハァ、仕方ないか。僕だけで入ろう」
服を抜きタオルを持ち洗い場に向かう。
頭から洗い、お湯で泡を流した際に泡が眼に入り慌てて、タオルで顔を拭こうとするが、置いた筈のタオルは姿を消しており、コウヤは手探りでタオルを探す。
“もにゅ”
「へ?」
コウヤの手が柔らかい感触に触れる。
慌てて手を離すと手にはまだ感覚が残っている。
「コウヤ、いきなり大胆、でもシャーデは構わない!」
「シャ、シャーデ! 何してるのさ」
慌てて湯槽を目指すコウヤ。そんなコウヤの両手を押さえるベルミとキュエル、抵抗できないまま、背中を洗われ、洗い終わると三人は出ていった。
「なんなんだよ、今日はなんなんだ?」
湯槽に入り考え込むコウヤ。全員の行動は間違いなく使用人であった。
湯槽から上がり着替えようと脱衣場に向かうと全員がその場で待ち構えていた。
「な、なにしてるの……!」
慌てて戻ろうとするコウヤをキャスカがガッツリと掴み「風邪引く前に着替えてね、コウヤ様」と耳打ちをする。
着替えが終わり、全てを見られ、方針状態のコウヤを一人置いて、全員が足早にその場から姿を消した。
「なんなんだよ……」
コウヤのそんな生活は数日続いたが、夜は静かに眠る事が出来ていた。
朝は使用人達が居るが夕方になると皆居なくなり、ミーナ達が役割を代わり替わり交代していく。そして、段々とそれに慣れてきた頃、コウヤは何時ものように寝室に横になるとガッシリと両手、両足を掴まれた。
「うわぁ!」
慌てるコウヤの側に8人の女性の姿があり、不適に笑っていた。
「み、皆……どうして?」
「なぁに、コウヤに給料を払ってもらおうと思ってねぇ」
少し照れくさそうにそう言うキャスカ、皆が少し顔を赤くする中、カカが口を開く。
「身体で払って貰う。当然、全額即払いだ」
「あ、あの……冗談だよね! ミーナ? ディア?」
二人すらも顔を反らす。
そして、コウヤの世間知らずな純情はその日8人に捧げられる。何があったかはあえて語らないが、朝まで続いた宴はコウヤの大人の階段を一気に駆けあがらせたのであった。




