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亜人と歩む ~瑠璃色王のレクイエム~  作者: 夏カボチャ 悠元
第三部 光の先に見える物
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新たなる者達3

 No.1の口から出た言葉にコウヤは死人の存在を忘れ胸ぐらを掴み力を込める。


「勝手なこと言うな……なんで用済みだとか、死にたいだとか言うんだよッ! 僕は認めない、君がなんと言おうが僕は絶対に認めない!」


 コウヤのむき出しの感情とその豹変した姿に初めて驚きの表情を見せたNo.1。


「コウヤ=トーラス、貴方は本当に変な人ね? 苦しいし、服が破けちゃうから、離して、破きたいなら別だけど?」


 その言葉に手を慌てて離すと顔を反らすコウヤ。


「言いたい事はわかったわ。宜しくねコウヤ=トーラス。私の事を守ってね」


「なんで! そうなるのさ」


 二人が話す中、次々に現れる死人、その攻撃を容易く躱すと互いの背中を守りながら徐々にバリケードのあった場所まで移動する。


 しかし、突如、落雷のように目の前に姿を現した二人組が道を塞いだ。


「おいおい、話が違うじゃないか? No.2がいないなら死を選ぶ筈じゃないのか?」


 大柄の男がそう言うと、もう一人の細身の男が首を傾げた。


「仕方ないさ、ナンバーズの初期の生き残りは色々と違反が多い、まぁ最後のナンバーズ00シリーズもNo.1のみになったみたいだから、全滅して貰おうじゃないか」


「アハハ、違いね…………」大柄の男が一瞬で消し炭のように燃やされた瞬間、細身の男は距離を取り両手から水魔法を放ちNo.1に激しく打ち付けた。


「い、いきなり殺りやがったな! 裏切るのかNo.1」


 水圧を更にあげ、激しく打ち付ける細身の男はNo.16、消し炭になったのはNo.15と呼ばれる男であり、後にコウヤはその名を知る事になる。


 そして、No.16の水魔法を容易く蒸発させるNo.1はその距離を縮めていく。目の前まで辿り着くと笑みを作り「バイバーイ」と口にするとNo.16の体から湯気を出し全てが塵になる様子にコウヤは息を飲んだ。


「仲間だったんじゃないの?」


「残念だけど、ナンバーズにそんな感情は無いわ、私が試作品として産まれて感情がある事実に皆が落胆してたもん、それより、急ぎましょ?」


 そこからバリケードまでの道のりはあっという間であり、既にシアンとヴァルハーレンにより、その一角の死人が激減していた。


 皆がNo.1の事を尋ねるも事態は一刻を争う、皆は生きている住民を避難させる最中、ガザが足を止めた。


「コウヤ王、先に行ってください、少しやり残した事がありやして」


 ガザが失った利き腕と反対の手に剣を握る。その先に戦闘で死んだ部下達の姿があり、その中にガザの副官を務めていた女の獣人の姿があった。


「すまないな、最後まで何も言えなかった……こんなに後悔する日が来るなんてな」


 二日目の戦いで戦死した彼女に対して優しく呟くガザは優しく悲しい目でその剣を振るい、消え逝く獣人だった物を大切に抱きしめていた。


「直ぐには逝けないが、また一緒に酒を飲み笑いやしょう、すまない」


 ガザは出来る限りの剣で仲間だった物を塵にしていった。

 荒々しく大振りで、らしくないその剣で感情のままに暴れた。


 合流したガザに無言で頷くテルガ、言葉に出来ぬ感情は涙になりガザの頬を流れ落ちる。


「まったく、皆、勝手に離れて行っちまうから、参りますよ……ですが、繋いだ思いは消えやせん」


 そう語るガザは表情を改めると、シアン達に対して、礼を口にした。そしてジュレム撤退と脱出を口にしたのだ。それはジュレム大陸を放棄する事を意味していた。

 シアン達はそれを受け入れると即座に退路を確保すると生き残った者達の移動を開始する。


 苦渋の決断だったであろう。ガザの王としての決断は正しかった。

 加勢があれど長期戦になる事は否めない。

 現状において、更なる犠牲を強いる事になる。数や質に関係無くジュレム大陸全体が死人の発生源になった事実を考える為らば、ガザの決断こそが最良と皆も口に出さねど理解していた。


 気づけば、朝日がその眩しいまでの輝きを放ち、ジュレム大陸を照らし出す。

 死人の群れが消える中、レクルアの港から全員を乗せたヴァルハラとガレオン船団が大海原に向けて出港する。


 ガザ達はミカソウマのダルメリアの森に移住する事が決まり、セテヤ大陸に着くまでの間、皆が治療に力を入れた。


 No.1についてはコウヤ預かりとなる。皆が反対したがコウヤ、そして、ガザとテルガがNo.1を庇う形で話がまとまる。


 悲しいジュレム大陸での戦いは大きな被害の傷跡を残しながらの敗北と言う他なかった。


 バライム大陸までの航路を辿るヴァルハラの船内で事件は起こった。

 それは食事の最中にNo.1が口にした一言が原因であった。


 ジュレム大陸を失い悲しみに暮れる住民の殆どが食事も喉が通らないと口にした時だった。


「食べないなら、始めから食事に来なければいいんだ、生きてても無駄しか作らないなら死人の方がましだ」


 その言葉に男の獣人達が立ち上がり、No.1に詰め寄った。


「殺りたいなら構わない、しかし今の私はコウヤ=トーラスの所有物だ。許可無く死ぬ気はない」


 獣人の一人が死を覚悟してNo.1を殴り掛かるとその攻撃はあっさりと腹に入りNo.1は壁に叩きつけられる。


「な、なんで避けない……!」


「死ぬ気はない……でも、悲しみがわからないとも言ってない。生きたなら食べなさい。食べれる幸せを噛み締めなさい。死人はもう食べる事すら出来ないんだから」


 その言葉に獣人の拳が震える。


「アグラクトの手先が偉そうにッ!」


 その時、食堂に入ってきたガザとコウヤ、そしてガザが声をあげる。


「やめねぇかっ! 最初がどうあれ、最後に道を切り開いたのは紛れもなく、その嬢ちゃんの力ありきだ」


 獣人の殆どが無言のままに目を強く瞑った。


「すまなかった、だが、許してくれとは言いやせん。間違いなく一時は敵だったんです、どうか気持ちをわかって貰えやせんか」


 ただ頷いたNo.1は食事のパンを持ち、その場を後にした。


 コウヤと共に甲板に出ると静かに壁に(もた)れ掛かり、無言でパンを噛じる。


「偉かったね」


「偉くなんか無いわ……」


 コウヤの会話はそれ以上なかった。ただ隣に座り空を眺めていた。


「私はコウヤの所有物になったから……何でも我慢する……それだけ」


 無言の空間にそう呟くNo.1。


「僕は所有物なんかになって欲しくない、それに君が此れから行く僕達の国は奴隷なんかがない国だから」


「奴隷がいないの? 奴隷以外の存在がいるの?」


 不思議そうにそう聞くNo.1と暫しの会話する。


 初めて見せた明るい笑顔にホッとするコウヤはその時No.1の本当の名を尋ねた。


「私に名前はないわ、ずっとNo.1と呼ばれてたから」


「なら、今から名前を決めないとね」


「名前? 自分で決めていいの……」


 頷くコウヤに一言「カカ」と真っ赤になりながらそう呟いた。


 No.1から改めカカと名乗る事を決めたのだ。

 何故その名を選んだのかを尋ねるとカカは恥ずかしそうに口を開いた。


「私に優しくしてくれた人が皆のカカ様だと言っていたから、そんな人になりたくて……」


「なら、カカ。約束だよ、むやみに炎は使わないこと、あと困ったら僕や皆に相談するんだよ。いいね?」


 頷いたカカを見て笑みを浮かべるコウヤ達はバライム大陸へと帰還した。

 悔しさの残る戦いであり、多くを失う事になったジュレム大陸戦はこうして一時的な終わりを告げたのだ。


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