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亜人と歩む ~瑠璃色王のレクイエム~  作者: 夏カボチャ 悠元
第二部 魔界偏 新に掴むべきもの
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仕掛けられた策略。ジュネルバの罠2

 ジュネルバでは、予想より早い段階で動き出したヴァルハーレン達ヴァイキングを部屋に止どまらせまいと必死に制止しようとするジュネルバ兵。


「どけいィィ! 我が道を塞ぐとあらば! 三度の警告があると思うな!」


 ヴァルハーレン達は武器を馬車に残してきていたが、その肉体は巨大な筋肉の塊であり、腕は人間の胴体に引きを取らない程の太さがあり、一人のヴァイキングに五人程の屈強な兵士が翻弄されていた。


 その中でヴァルハーレンは二回りも巨大であり、角の生えた兜が只ならぬ雰囲気を更に際立たせていた。


「オイオイ! アンタら、いくら客人でもこれ以上の狼藉は、この千人長である俺が赦さねぇぞ、ゴラァ!」


「「おおお、千人長だ!」」


 兵士が騒ぎ出すと男は「あとは任せな!」そう言い前に出てきた。

 男はヴァルハーレンより、やや低いが他のヴァイキングより身長が高く鍛え上げた肉体に自信ありと言わんばかりにヴァルハーレンの肩に手を伸ばし制止しようとした。


「客人は客人らしく! 酒を楽しんでろや! わかっ……」


……ガッダン!


 ヴァルハーレンの肩に手をかけた一瞬であった。その手はあらぬ方向に無造作に減し曲がり、叫び声をあげる暇すら与えぬ拳が男の(アゴ)と前歯を粉砕し、そのまま大理石の柱にめり込ませたのだ。


「儂は言った筈だ! 三度の警告はないッ! 今で二度目、三回目は容赦なく潰すぞ!」


 既に拳を食らい虫の息の千人長を前に出た言葉に皆が下を向き震えながら無言で道を譲る。本来ならば、ヴァイキングを止める事など人間には不可能なのだと再確認させられるような光景、更に馬車の回りに横たわるヴァイキング達の存在を考えた兵士達の顔からは生気が失われていくようであった。


 強行突破したヴァルハーレン達の前に武器を手にすると馬車の中で動けない程に泥酔したヴァイキング達に剣を向ける兵士の姿が目に入る。その瞬間、全てが始まった。


「我が仲間に剣を向けたな! 誤解などと言う言葉はあるまい! 全員皆殺しだァァァ!」


「「「行けぇぇぇ!」」」


 ヴァイキング達がジュネルバ内で戦闘を開始した頃、レクルアに移動したコウヤとキャスカをレクルア兵が取り囲むように陣形をとり、瞬く間に周囲がレクルア兵が埋め尽くしていく。


「うわぁ、なんか凄い数なんだけど?」


「なんだいコウヤ? ビビったのかい」


「まさかぁ、寧ろ数より質に問題だって理解してますよ」


 余裕を見せる二人は互いに剣を抜き、どれ程、その場に居るかもわからぬレクルア兵に対して構えをとる。


 それを見て笑い出すレクルア兵達。しかし、二人も敵が油断してると理解し笑みを浮かべた後に鋭い野獣のような眼をレクルア兵に向けた。その瞬間、レクルア兵は気づいたのだ、食う方と食われる方が存在する、そして自分達が食われる側であるのだと。


 獣を前に武器を強く握り、震える足腰に活をいれる。気持ちを強く持とうとする事で何とかその場を踏み止まるレクルア兵達、そして、舞い踊るようにしてステップを踏み始まるキャスカの剣舞、それにステップを合わせるコウヤ。


 敵に囲まれている事実を感じさせないように、その場で両手両足をしきりに上下にくねらせるようにして複雑に動き始めると上体を下向きにする。

 それを合図に本当の剣舞が開始された。


 キャスカの両手の剣が手首の回転で複雑に動きその剣先に触れたものを全て切断していく。後ろから、次々に押され身動きの取れない状態のレクルア兵に逃げ場はなく、更にコウヤはそれに合わせ反対側から敵兵を切り裂いていく。


 前方で上がる血飛沫(ちしぶき)を確認した司令官は即座に早馬を走らせた。

 誰もが血飛沫は反攻した二人の者であるとして、疑わなかった。司令官の飛ばした早馬は、レクルア王へと情報を伝え、その足でジュネルバが確認出来る程の狼煙を激しく炊きあげた。


 戦場となったレクルアの港が赤く染まる中、コウヤの眼の中に指示を出し勝ち誇った表情を浮かべていた司令官の姿が入ってくる。


「キャスカ、少し行ってくるね」


 舞いながら頷くキャスカに微笑むコウヤは、テレパスを使い司令官の前に姿を現すと即座に地面に手をあてる。


灼熱の防壁(ファイヤーウォール)、此れで誰も逃げられないよ……」


 地面から流れた魔力が一定の距離に到達すると炎に包まれた岩の壁が円を描くようにして出現した。司令官は、余りに強大な魔力とその範囲に驚愕していた。


「獣が人間の真似事をしよって! 人間の力がわからぬ獣よ、数に勝る力無しとその無知な頭に刻み朽ち果てよ! お前の国には、ヴァイキングと戦い敗れたとでも伝えてやるわ!」


「やっぱり救いようがない……もう覚悟はとっくに決めてたのに……強炎魔法(ギガノフレイ)、もう聞きたくない……」


 司令官は、自身が至近距離から焼き尽くされ消し炭に為った事すら感じなかっただろう。目の前で司令官が一瞬で煤にされる姿を見て、慌てて逃げ惑う敵兵を容赦なく切り刻むキャスカ、逃げる敵兵を後ろから次々に焼き払っていくコウヤ。


 コウヤは自身の甘さを捨てる為に必死であった。冷静を装いながら人間を燃やす度に……相手は敵なんだ! 殺らなくちゃ殺られるんだ……と強く自身に言い聞かせていた。

 一人殺める度に体にまとわりつく煤、人だった物と感じる度に襲い来る感覚、小さな体を中から一斉に臓器を鷲掴みにするような不快感を丸飲みにするように耐えるコウヤ。

 頭の中で囁かれ、人間への憎悪が更に増していく感覚はコウヤ自身の精神を更に磨り減らし、真っ直ぐで有りながらも(いびつ)にして、禍々しい形にゆっくりと(ゆが)めていくのだった。


 二人から逃げようと必死に炎の防壁を登ろうとする人間が熱に耐えきれず、その身を焦がしていく最中、突如として防壁の一部がひび割れ穴が開く。


 二人がその開いた穴を直視するとその先に、数百の敵の増援を確認する。


 状況は多勢に無勢のまま、敵の魔導師部隊が増援に現れたのであった。


「随分と暴れたようですね! レクルア魔導部隊、指揮官のバルガス=ノーマ。王の命により、あなた達二人を侵略行為の罪人として葬らせていただく」

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