大国ジュネルバ4
換金所の荒れようを目にしたマドックの顔は青ざめ、その目には絶望の色が見え隠れしているのが誰が見ても即座に理解できる。
全てを収集できぬままの状態で在るにも関わらず、コウヤ達がコロッセオを後にしようとするとマドックは困り果てた様子で一行を見つめている。
「ま、待ってください……今しばらく、待ってくださいませ……」
そう口にするマドックには最初の下卑た笑みはなく。弱々しく青ざめ笑みだけが浮かべられている。
「僕達に御構い無く、少しジュネルバ王にお会いしたくなりましたのでジュネルバ城に向かいます。ではマドックさん後程」
コウヤの無表情から放たれたその言葉に怒り、声をあげようとするマドックはそれすらもヴァルハーレン達の視線に声を出す事も出来ずにただ下をうつ向き、うなだれるていた。
一行を悔しそうな表情で見詰めているマドックをそのままに城を目指していく。
コロッセオの外に待ち構えていたのはガザであった。
「おや? マドックの奴は居ないのですね? まあ、あの様子じゃ逃げられないか、それにあのカボチャさんも姿が見えないようで?」
「あ、そう言えば! パンプキンがいない!」
その慌てようを見て楽しそうに笑うガザ、コウヤ達に改めて会釈をすると涼しい顔で微笑んだ。
「今からジュネルバ城へご案内致します。馬車を先導致しますので、後についてきて下さい」
一行が馬車に乗り込むのを確認した後にゆっくりと馬を進めていく。
「なんか胡散臭いわね? あのガザって男、それに匂いを誤魔化してるなんて、なんかいやだわ」
ミーナの言葉にキャスカ達が頷く様子を見て首を傾げるヴァルハーレン。
「なんの話だ? あの男の香水の事か?」
訳がわからないヴァルハーレンが質問をする中、ガザが馬の歩みを突如止めた。
異変に気付きガザの方を向くコウヤ。其所には少し難儀した表情を浮かべるガザの姿があった。
「どうしたの!」
その声に後ろを軽く振り向くガザ。
「多分、ジュネルバ国民かと? 参りましたね、待ち伏せですよ。まったく、ろくな事を考えない連中だなぁ」
コウヤ達をコロッセオから先回りした者達が城に向かう為の林道に潜んでいるのを感じとり、馬を止めたのであった。
直ぐに相手の数を体外魔力で調べるコウヤ。
数は、わかる範囲で20名程であり、その殆どが小刀や薪割りの斧を武器にしている。
ーーあんな武器で攻撃する気なのか? 幾らなんでも自殺行為だよ、諦めてくれないかな……
そんな思いも虚しく、数本の狩猟用の矢が馬車に命中すると同時に一斉に向かってくる国民達。
馬車から降り武器を構える一行、互いに衝突は避けられないと覚悟を決めた瞬間、ガザが大声を上げ、国民を一括する。
「静まれェェェ! 此方に居るはバライム大陸、第二位の大国ミカソウマの王、コウヤ=トーラス様、セテヤ大陸のユウインダルスの王、ヴァルハーレン様とその一行である!」
その言葉にピタリと攻撃が止む。更に声をあげ続けるガザ。
「ジュネルバの者がジュネルバ以外の者を傷つければどうなるかはわかっておろう! 再度言い渡す! 此処にはジュネルバ以外の者しかおらぬ! 今引けば、捕まえるような真似はせぬ、おとなしく引けい!」
ガザが喋り終わる前に周囲から人の気配が消えていく。
辺りを見回し、安全を確保したことをコウヤ達に伝えるガザ。
「申し訳ありません、こんな筈ではなかったのですが中々に予定通りにはいかぬものですなぁ、時間を取られましたがお陰でこの先は安全になったと思いますので」
大声をあげた為、他の者が居たとしても襲われる事はないと口にするガザ。
ジュネルバでは戦争以外で他国の者を襲うことを禁じていた。
国を危険に晒す行為に繋がり兼ねない事実、貿易が止まれば、ジュネルバは完全に孤立し有りとあらゆる金の流れを停止してしまうからだ。
ジュネルバの資金源の一つはコロッセオの剣闘であり、二ヶ月に一度行われる完全試合には、50人程の奴隷兵を使った殺し合いを出し物とし他の大陸からも客を募る事で国を国を潤している。
そして、もう一つの資金源、それは奴隷の売り買いであった。
奴隷の存在その物を支える基盤として成り立っている国こそ、ジュネルバである。




