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亜人と歩む ~瑠璃色王のレクイエム~  作者: 夏カボチャ 悠元
第二部 魔界偏 新に掴むべきもの
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バデルイヤ強襲 コウヤのケジメ

今回は長いです

ーー奴隷国家 バデルイヤ。

 人間、獣人、エルフ、ゴブリン、ドワーフ、あらゆる亜人と人間を拐って売り買いする奴隷商が創った国であり。バデルイヤの国民の殆んどが犯罪に手を染めた者達であり犯罪者とその家族が殆どである。

 国を支配するのは奴隷商として悪名高い男“バンデレスト=キュレア”である。


 魔界に近く山と言っても岩山であったバデルイヤの創られた土地は誰の物でもない只の荒れ地であった。

 其れを知ったバンデレストは自身の財と奴隷を使い山を要塞に変えた。

 最初は只の隠れ家にするつもりだったが次々に犯罪者や流れ者達が集まりだし、バンデレストの中にある野心が生まれた。

 魔界に近く他の国から討伐隊が来ることの無い状況、更に言えば魔界と人間の契約により魔界から攻撃を受ける事もない。まさにバンデレストにとって最高の条件が整った場所であったと言える。


 バンデレストは魔族に手を出さない事を徹底し魔界への敵意が無いことをアピールし続けると同時に離れた村や街から人と亜人を拐い続けてその勢力を拡大していった。


 拐うのは街なら数人ずつ、小さな村であれば村から女、子供をすべて拐い他は皆殺しにする。

 獣人等に関しては成人していても生きたまま捉えて獣戦士として売るのだ。その際に首に奴隷具と呼ばれる火薬入りの鉄の首輪を装着される。

 逃げようとしたり反抗をした際に火炎魔法 一つで処理するためであった。


 その為、バデルイヤの奴隷兵は傭兵より遥かに重宝されていた。


 生きるために戦う亜人の兵士達。人間の血が流れない安全な戦争が出来ると多くの者達が売り飛ばされて行き、その命を戦場に散らしていった。更に奴隷達が絶望したのは、傷が酷い奴隷は治療等は受けれない現状、その場で吹き飛ばされる事もあり人間への憎悪や怨みがあろうとも決して抗えない。


 しかし、バデルイヤに初めての敵襲の声が叫ばれる。バデルイヤ国民が動揺する。そして直ぐに武装した男達がコウヤ達を目掛け馬を走らせた。


 バデルイヤから出た敵兵は歩兵が1500。馬に乗った兵が1000騎の合わせて2500。

 其れに対してコウヤ達は全員合わせて800の兵力であり、全員がギルホーンに乗っているが圧倒的な戦力差があるのは明らかであった。


 コウヤ達が敵兵の接近に対してとった作戦は正面突破である。


 1000騎の敵兵と1500の歩兵を前に全力でギルホーンを走らせる。

 コウヤは直ぐに敵の隊長各を体外魔力で見つけるとギルホーンの上から“テレパス”を使い即座に敵の隊長の首を切り落とした。いきなり姿を現したコウヤ、そして一瞬で首を失い地べたに倒れる隊長の姿にその場に居た者は状況がわからないまま困惑する。

 そして我に返った複数の敵兵がコウヤ目掛けて剣を突き立てた瞬間、再度テレパスを使いコウヤは自身と別の指揮をする隊長と位置を入れ替える。


 バデルイヤ兵の刃がいきなり現れた別の隊の隊長を貫く。そしてコウヤは入れ替わったその場から刀を振るいバデルイヤ兵を次々に切り裂いていく。

 バデルイヤ兵は一瞬で指揮官クラスの隊長を失い混乱する。しかし、そこにギルホーンに跨がるラシャ達が姿を現す。


 一瞬で800のギルホーンが敵兵の中を突き抜ける。ギルホーンの鋭い角には鉄の被せ物がしてあり、敵兵の体に触れればそのまま貫き、走り続けるうちに敵兵の体はちぎれ肉片へと変わっていく。


 コウヤは一気に敵兵を蹴散らし、其れを追う者達が後方からギルホーンの群れの餌食になる。

 そしてコウヤが再度テレパスを使いギルホーンに跨がる。戦況は圧倒的であった。


 隊長を失い仲間が殺られると次々にバデルイヤに向けて後退する敵兵の姿がそこにはあった。


「追撃開始ぃぃぃ! バデルイヤは罪を犯しすぎた! 僕達の手で決着をつける。いくぞぉぉぉ!」


 コウヤの声に皆が再度進軍を開始する。


 コウヤはシアンからバデルイヤの襲撃した小さな村の話を聞いていた。シアン達が偶然立ち寄った村は既に焼け落ち、唐牛で生きている老人が孫の名前を呼びながら死んでいく姿が其処にはあったと言う。コウヤはその話を聞き自分の母と拐われた妹、アイリの事を思い出していた。


 そして、人を拐い富を得て大きくなったバデルイヤを強く憎んだ。そんなコウヤ達に新たに近づく部隊があった。しかし、その事にまだ気づいていなかった。


 コウヤ達は止まること無く一気にバデルイヤまで進軍する。門を閉ざし弓で攻撃してくるバデルイヤ兵、その弓をエルフ達が風魔法を使い弾き飛ばす。

更に離れた位置からコウヤが魔導銃リボルバーを門に向けて構える。


 コウヤの体外魔力が魔弾に込められる、止まることの無い魔力が撃ち放たれた魔弾に注がれ続けると魔弾を通して凄まじい威力の衝撃がバデルイヤの門を激しく揺らし巨大な穴が出来る。

 其処から一気にゴブリンとオーク達が中に入り敵兵の中に割って入るとコウヤ達が敵兵の頭上を飛び越え後方に回ると直ぐに反転し前方後方からの挟み撃ちをする形になる。


 バデルイヤ兵の殆どは犯罪者であり、軍人ではない。コウヤ達の常識離れした戦略と戦術、ラシャ達の戦闘慣れした戦い方の前に数など関係はなかった。


 更にコウヤを含めラシャ達エルフの優れた回復魔法“リスペル”と“リペルト”を使い傷付いた兵は直ぐに回復をする。

 5人組を1部隊として戦うコウヤ達は死者を出すこと無く戦い続ける。其れに対し回復の術を持たないバデルイヤ兵の被害は甚大であった。

 バデルイヤは直ぐに奴隷達を戦場に導入することを選び、地下牢から次々に首輪を装着された戦士達が地上に姿を現した。

其れを確認したコウヤが直ぐに水魔法を発動どうする。

 体外魔力を使いコウヤの意識が無くなるギリギリまで魔力を高めると凄まじい量の水がバデルイヤの中に放出される。


 バデルイヤ兵や奴隷兵達が水に流されるが威力はさほど無い。

 直ぐにバデルイヤ兵が其れを確認すると立ち上がりコウヤに向かい斬りかかろうとするがコウヤは水の放出をやめなかった。

そして、ラシャ達が植物魔法を使いコウヤの開けた入り口の巨大な穴を塞ぐ。するとバデルイヤの広場にあっという間に膝下まで水がたまる。


 コウヤを守るオークとゴブリン、そして島人と紅眼達。コウヤは水の放出をやめるとその場にいる奴隷兵達に向けて声をあげた。


「僕達と共にバデルイヤを滅ぼす者がいるなら一緒に来てほしい! 僕は今日バデルイヤを崩壊させる!」


 その言葉にバデルイヤ兵と奴隷兵は驚いた。更にコウヤが声を張り上げる。


「今、火薬は濡れて使えない。そしてこの場に火炎を得意とする者も居ないのは確認済みだ。今が立ち上がる時だ! 誇りがあるならば僕と来い! 今殺らなくちゃ、ずっと奴隷としての運命を背負うことになる! 戦士よ今こそ剣を掲げよぉぉぉ!」


「「「ウオォォォ!!!」」」


 ラシャ達が一斉に声をあげると同調した奴隷兵がバデルイヤ兵に斬りかかる。


 獣人と亜人、ドワーフにエルフ、命を賭けた必死の反乱。会ったばかりの獣人の言葉を信じたわけではない。たが、コウヤの言葉に皆が希望を見たのだ、そして奴隷として死ぬより生きて戦い戦士としての死を望んだのだ。


 直ぐにコウヤはオークとゴブリンに首輪の解除を頼むと次々に奴隷兵を後方に移動させた。

 奴隷兵から地下牢の場所を聞くと直ぐに源朴達が地下に向かう。


 コウヤ達はそのままバデルイヤ兵と戦闘を繰り返す中次々と奴隷兵が首輪から解放されコウヤ達と共にバデルイヤ兵との戦闘に参戦する。


「俺はバゼル、ベルサルバ帝国の獣人だ、今回の事をは恩に着る。仲間達も共にバデルイヤを滅ぼす為に戦うつもりだ!」


「僕はコウヤ=トーラスだよ、よろしくね」


 コウヤ達の戦力は奴隷兵の参戦があり1300にまで増えていた。地下に囚われていた奴隷兵はエルフの水魔法を掛けた後に源朴が紙一重で斬っていく。

 奴隷兵達はその瞬間、死を覚悟したと後に語った。其れに対してバデルイヤの戦える者は5000弱にまで減っていた。

 非戦闘員である国民は次々にバデルイヤから逃げる用意をしているのがわかる。


 非戦闘員への無用な攻撃をしないようにコウヤが皆に伝え、バンデレスト=キュレアの居る要塞まで一気に向かう。バデルイヤの奥に山肌をくり貫いて作られた要塞に残りの敵兵が集結して要るのが直ぐに理解できた。


 コウヤ達は要塞内に女の奴隷が居ることをバゼルから聞くと街中にある地下牢から全ての奴隷兵を解放した。解放された奴隷達の中には衰弱している者も多く、エルフ達の殆んどを治療の為バデルイヤの街に置いていくことになった。

 そんなコウヤ達の元に門を突き破る音が聞こえ、皆が門の方を見る。


 其処にはダルメリアの獣人達とキャスカとディアロッテ、そしてミーナとシアンにマトンの姿まであった。


「やあ、思ったより凄いことになってるねぇコウヤ君!」


「シアン様! 其れに皆も!」


「私の弟子が戦ってるんだ、師匠が助けに来るのは当たり前だろう、優しい師匠に感謝しなさいよ?」


「キャスカ様は我慢が出来ないのです、コウヤさんの戦いなのにすみません」


 ディアロッテの言葉にキャスカが笑うその横からシアンがマトンと共に魔族に指示をだし直ぐに怪我人を魔界へと運びだす。動けない者は魔族達が回復魔法を使い治療していく。


「私たち魔界生まれの魔族には人間を攻撃出来ない、だから御手伝いに来てあげたんだぁよ! 優しい主人である私にも感謝してよいぞ、コウヤ君」


 そう言い笑うシアン。更にミーナと獣人達が参戦し、キャスカとディアロッテそして他のメイド達が武装して参戦した。


 キャスカ達は獣人や他の亜人とのハーフであり、魔界の生まれではない。ダルメリアの防衛が無くなった今シアンを説得してコウヤの元に駆け付けたのだ。


 コウヤ達1500名に新たに加わる180名の獣人と20名のキャスカとメイド達。そして回復要因の魔族600名。数の勝負なら圧倒的に不利なのはかわらない。


「さあ、久々に派手に花火を打ち上げな! キャスカ隊構え! 撃てえぇぇぇ!」


 キャスカの向けられた剣先にディアロッテとメイド達が一斉に魔導銃を構える。

 そして一斉に撃ち放たれた魔弾が空気を震わせる。爆音が鳴り響き要塞の扉が粉砕される。


「アハハ! どうだコウヤ、凄かろう! 続いて第2射用意!」


「待って師匠! まだ奴隷にされてる人が中にいるんだよ!」


 其れを聞きキャスカが攻撃を中止する。コウヤはテレパスを使い中に侵入すると言い出した。


「コウヤさん無茶はいけませんよ。いくら何でもあの敵兵に一人で向かうなんて無茶ですよ」


 其れはパンプキンの声であった。


「と言う事で、キャスカ、直ぐに第2射を発射してください」


「わかったわ! 第2射用意! 撃てえぇぇぇ!」


「な、何で! 何で撃ったんだ!」


「コウヤ? あんたはランタンとの付き合いはどのくらいだい?」


「え、2年くらい……」


「なら、分からないかもね。でもランタンが射てと言えば私達は引き金を眼を瞑っていても悩まずに引く。ランタンを私は信じてるからだ、そして答えはランタン自身に聞きなさい」


 パンプキンがコウヤの前でポケットの中から奴隷達を外に出していく。


「すみません、先に説明するべきでしたね、コウヤさん、しかし貴方が奴隷達を助けるか見殺しにするかを確かめたかったのです。酷いやり方をしました。申し訳ありません」


 コウヤに頭を下げるパンプキン。その横でキャスカが次の攻撃を開始する。

 第3射が要塞に命中した時、要塞の頭上にあった山が一気に崩落し要塞を押し潰すように被さった。

 地響きと粉塵が宙に舞い山が形を変えた。

 全てが終わったかのように思えた次の瞬間、パンプキンのポケットから見るからに奴隷とは異なる男が縛られた姿で地面に叩きつけられた。


「コウヤさん、此処からは貴方の仕事です。戦争を終わらせましょう」


 地面に叩きつけられた男はバンデレスト=キュレアであった。


「頼む! 助けてくれ、金ならある、金塊も宝石も欲しいだけくれてやる! なんなら、これから先の魔族への協力も約束する! だから助けてくれ」


 大声で泣き叫ぶバンデレスト。


「コウヤさん、ケジメなき戦争は単なる身勝手な暴力です。そして貴方のケジメはこの男の首を取ることにあります、戦争を始めた責任とケジメを」


 コウヤは息を深くすった。

 一心不乱に刀を振り上げるとまるで微風が靡いたかの一瞬の出来事であった。


 醜く歪むバンデレスト表情をそのままに地面に首が転がり、全てが終わりを告げた。


「この戦いは僕達の勝利だ! 手を天に掲げよ!  勝ったぞぉぉぉ!」


「「「おおおぉぉぉ!!!」」」


 コウヤの勝ち鬨に皆が手を天に掲げ、バデルイヤが敗北したことを皆が喜んだのであった。戦争の意味を知り覚悟を知り更にケジメの本当の意味を知ったコウヤ初の国取りであった。

読んでいただきありがとうございます。

感想や御指摘、誤字などありましたらお教えいただければ幸いです。

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