序章……未来の景色……
※挿絵 管澤捻
世界を自分の物として支配し亜人達を蹂躙してきた世界があった。
しかし、世界はいつしか其れを認めることを拒み始めたのだ。
今まで我が物顔で全ての種族の頂点のように振る舞ってきた人間。
人間に支配された世界は突如として現れた亜人の王と仲間達により、争いの渦に巻き込まれる事になったのである。
最初に反旗を翻し立ち上がったのは、一人の亜人の青年であった。そして、青年の横には、数多の亜人達に指揮をする魔族の姿。
最初は小さな戦争から始まった戦禍は瞬く間に世界に飛び火し次々に反旗の嵐が巻き起こった。
この出来事がきっかけになり、世界に反乱の炎があがると人間達は狂気に走り、逆らう者、従わない亜人を次々に虐殺していった。
しかし、それは更なる火種に油を注いだだけであった。世界に掲げられた人間の支配を表す旗印が燃やされ塵になっていったのである。
事態を重く見た王国は更なる大部隊を使い数で反乱を鎮圧することを決める。そして、人は何時しか悪魔との契約を結び逆らう者を次々に首をはね、時には見せしめとして生きたまま焼き殺した。
次第に反乱者は影を潜め始め、全ては上手く行く筈だった。
そんな王国に数人の獣人と魔族が姿を現すと状況が一変する。
そして、王国は、一晩のうちにその強大な戦力を失うことになる。
初めは数人だった敵の数が一瞬で数万の影にかわり、王国は中と外から攻撃を受けることになる。戦力の殆どを城の護りに回したことによって自ら退路を失う結果となった。
そうしなければ生き残れないと判断せざるをえない状態にまで人間の王は追い込まれていた。
その状況下で更に人間を絶望へと陥れる様な光景が広がる。
様々な亜種族達が武器を取り一人の青年と旗印の元に集結し始めたのだ。王国の壁の外を埋め尽くしていく亜人。
青年の横には魔族達が肩を並べ、反対側には獣人達が自身の牙と武器を手に青年に頭をたれる。
その異様な光景に人間達は恐怖と絶望を感じて震えた。
獣人と魔族の掲げし旗印に描かれた獣人の王の元に集う魔族と獣人を見ているようであった。
人間が悪魔と契約を結んでから此処まで追い込まれる事は想像していなかった。
だが、時代が新たなる方向へと既に動き出していたのだ。
至る所から聞こえてくる雄叫び。
其れを聞く度に人間達は、いつ攻めてくるやも知れないと言う、恐怖心に苛まれていた。
人間達の精神を蝕み自ら命を絶つ者まで現れていた。
そして、始まりの月の晩に獣人達は太鼓を鳴らし奇声をあげた。
「時が満ちた、もう…… 悩む事も無くなったんだ」
「やっとだね。コウヤ、此れでいいんだよね」
「うん、全てを終わらせよう……最後まで着いてきてくれて、ありがとう」
そう言うと青年は自分を信じる戦士達に対して声をあげた。
「此れがこの国での最後の戦闘だ!
今まで死んでいった仲間達の為に、今から僕達の手で世界を変える!
新しい世界に人間と悪魔の居場所は無い。
此れは種族を滅ぼす為の戦争だ。
慈悲を棄てよ!
哀れみを棄てよ!
目の前にいる敵は家族の仇と思え!
行くぞォォォ 」
「「「ウオォォォーーォォォオオ!!!」」」
掛け声と共に獣人が魔族そして、思いの元に集まった亜種族が一斉に戦場に走り出した。
一つの荒波となり人間と悪魔の連合軍を今にも飲み込もうとしている光景に人間の王は絶句した。
「な、何故こんなことに…… 我らは地上を支配する人間なんだぞ! あんな獣や亜人どもに何故此処まで攻め込まれた…… 」
人間達の最後の砦に押し寄せる数え切れない程の種族達、激しい攻撃を前に防戦一方になる人間達。
そして、気付けば王の目の前に一人の獣人が立っていた。
獣人の耳と牙を持ち、魔族と同じ魔眼と片方には、紅眼と言う異端児、全身からは血の匂いを漂わせているのが直ぐにわかった。
その青年は王の前に忽然と現れたのだ。
「永かった。お前を倒す為にどれ程、仲間の血が流れたかわからない。でも、全て此れで終わる……」
「た、頼む! 死にたくない……頼むからやめてくれ、殺さないでくれ、死にたくない…… まだ死にたくない!」
青年の言葉に人間の王は命乞いをした。自分の命を助けてくれと必死に求めた。
「アナタは、そうやって命乞いをしてきた人達を生かした事があるの?」
「頼む、止めてくれ…… 助けてくれ!」
「人間の言う神様が居るなら助けて貰えばいいよ。でも僕達の神とお前達の神は違うんだ」
青年の振りあげた刀は国王を縦に切り裂くと部屋に敷かれていた敷物が赤く染まる。
青年がもし、普通の世界に生まれていたならば、世界は違う結末を迎えられたのだろう。
しかし、青年の平和な日常は既に人の手で摘み取られていた。
青年が幼い日に夢見た景色は既に……この世界には無い……
「人間の王は、コウヤ=トーラスが討ち取った。
この戦争は僕達の勝利だ!
手を天に掲げよ!
勝利の声をあげろォォォ!」
「「「ウオォォォォォォ!!!」」」
王都を振るわせる声は新たな世界の産声であり、この戦争は数多の戦争の1つに過ぎない。
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