ミジメな気分
ミジメな思いをした事があります。
クリスマスの日の事です。
その日は、週に3度の配達の前日でした。
出荷の為に、野菜の調整をしないといけません。
しかも、大雨の降る日でした。
その国はカトリック国です。
普通の信徒は教会に行く日です。
私の同僚もカトリック教徒でしたが、もちろん収穫と調整です。
大雨の降る中、合羽を着て野菜を洗ったりしておりました。
屋根のある作業場はありましたが、トタンに大穴が開いておりましたので、正直余り意味がありません。
狭かったですし。
そんな時です、オーナーの息子さんが農場にやって来たのは。
用件は、ビンロウジュの実です。
ビンロウジュとは、噛み煙草に使うヤシ科の植物の種子です。
ビンロウジュをキンマというコショウ科の植物の葉で包み、少量の石灰も混ぜ、時にタバコの葉までも混ぜ込み、噛むのです。
噛むと真っ赤な唾液が口一杯に広がります。
この液は有害ですので、吐き出します。
道路には真っ赤な液が広がり、非常に汚い見た目です。
噛んでいると興奮、酩酊感が得られる様です。
私もビンロウジュの実だけ噛んだ事がありますが、とても苦くて耐えられませんでした。
そのビンロウジュは農園にも植えられており、オーナーの息子さんは自分で楽しむ為に取りに来たのでした。
売る為にも収穫しており、それを先に貰い受けるのです。
我々は大雨の中、座って調整作業をしております。
息子さんは傘を差し、我々の作業を見つめています。
やがてビンロウジュを受け取り、何も言う事もなく、去りました。
クリスマスの日ですよ?
日本ではクリスマス・イブはカップルの為にある感じになってますが、カトリックの国ではクリスマスこそ一大イベントです。
通常は教会に行き、神に祈り、家族の団欒を楽しむのです。
そんな日にも普通に働かせて、オーナーの息子として言う事はない、のでしょうね。
大雨の降る中、外で作業をしている労働者に、何も思う所はない、のでしょうね。
ミジメな気持ちになったのは、初めての経験でした。
まあ、儲かっていない農場ですので、それ以上の金をかける気にもならなかった部分はあるでしょうが……
それとても、肥料と農薬をきちんと使えば、生産性は随分と上がったはずなのですけどね。