助けを求めて
もっと助けを呼ばなくては。
ポワンはフレイズと市原に美玲からの伝言を伝えてから、他に戦力になる者はいないかと小さな羽を動かして城のあちこちを飛び回っていた。
だが今は、夜の境界でアイーグと戦うために、人の子の護衛を命じられているフレイズ以外の騎士はみんな出払っていてみつからない。
「どうしよう、ミレイ様……っ」
トルトにそっくりなあの妖精に美玲が危害を加えられたらと思うと不安に胸が張り裂けそうだった。
ただのお世話係のポワンに優しくしてくれ、さっきも重いバスケットを持ってくれた。
そんな優しい美玲に何か起きたらと思うと恐ろしさに身の毛がよだつ。
「誰か……誰かいないの……?!」
早く騎士団やトルトに戻ってきてほしい。そうすれば敵は一人だけ。追い払うのは容易だ。
「あれ、やっぱり誰もいない……」
「戦いがあるって言ってたもんな」
青い目に大粒のしずくが溢れてきたとき、人の声が聞こえてきた方へいくと、そこにはかれんと志田の姿があった。
紅の泉から戻ってきたのだ。
ポワンは目にたまったしずくをエプロンで拭うと、声がした方に飛んだ。
「カレン様、サトル様!」
「ぽ、ポワンさん……?あの、グリルさんたちは夜の境界ってところに……」
「わかっています!それよりも大変なんです!ミレイ様が!!」
勢いよく飛び込んできたポワンに驚いて早口に言うかれんの言葉を遮って、ポワンが叫ぶように言うと、二人の表情が固まった。
「美玲がどうかしたの?!」
「トルト様に似た妖精が、いてそれで、ミレイ様がナイト様とフレイズを呼べと。二人はもう行きましたが、私、心配で……っ!」
「話がよくわからないな……」
志田は困った様に頭を掻いた。
緊急事態に、焦りと助けになりそうな人を見つけた興奮で話がうまくまとめられない。
フレイズたちはよく混乱していた自分の言葉を理解してくれたとありがたく思った。
「美玲に何があったの?」
そんなポワンの両肩に手を置き、かれんがまっすぐ見つめてくる。黒い瞳には不安そうにする自分の姿が映っている。
「あ、あの……」
「大丈夫?落ち着いて。焦らなくてもいいよ。美玲に何かあったんだよね?案内してくれる?」
「は、はいっ!」
かれんに優しく声をかけられ、少しずつ気分が落ち着いてきた。
「もう大丈夫です。ミレイ様ははこちらです」
かれんと志田を先導しながら、美玲が無事でいるように、ただそれだけを願いながら羽を懸命に動かして飛んだ。
どうか間に合って。
ポワンの頭の中にあるのはそれだけだった。





