はさみうち
川の流れに乗る魚のように、水皇は妖精の城の中をおよいでいく。だがそれよりもジャニファが飛ぶスピードの方がずっと速く、なかなか追いつけずにいた。
「どうしよう、間に合わない……っ」
あっという間に廊下の向こうにジャニファの姿が見えなくなり、美玲は焦った。
記憶の書を持ち去られたなんて知ったらトルトはなんて思うだろう。
いや、妖精の国の大切なものだろう。トルトだけでなくフレイズやベルナールたちも困るはずだ。
どうしよう、どうしようと気を急かしながらもなんとか頭を働かせる。
「私を降ろして!水皇は先に行って!」
水皇は美玲を降ろし、飛翔する速度を上げてジャニファを追って行った。
床に降ろされた美玲はリレーの選手になったことはないし、早さもクラスで真ん中くらいしかないが、持てる速度の全てを出しながらその後を追った。
戦闘が始まっているのか、剣がぶつかり合う金属音が聞こえてきた。
美玲は膝に力を入れ、運動会のゴール直前のようにラストスパートをかけた。
角を曲がると、水皇がジャニファと鉾と剣を交えて戦っている姿が見えた。
「そこまでだ、ジャニファ!!」
渡り廊下に出る前の扉に、ポワンの話を聞いてフレイズと市原がちょうど駆けつけた。二人の姿に美玲はホッとした。
限界を超えるくらいの全速力で走り、すぐにジャニファと戦えるような状態ではなかったからだ。
「ほう、早かったな。松の妖精」
「褒め言葉だよね?」
フレイズの言葉に水皇と斬りむすんでいたジャニファは、水の上級精霊を力ずくで押し返し、雷撃を与えて壁に叩きつけると、余裕を表すようにおどけるような仕草をして肩をすくめて見せた。
「水皇!」
「水の娘も来たか……」
美玲は雷撃で壁に叩きつけられぐったりした水皇を助け起し、精霊界に送り返すと、ジャニファを挟み撃ちをするように立った。
そして大きく深呼吸して呼吸を落ち着かせる。
「永倉、大丈夫か?」
自分を気遣う市原の言葉に、片手を上げて大事だと返した。
「ジャニファは記憶の書を持っているの!取り返さないと!!」
ようやく呼吸が落ち着き、フレイズに知らせるべきことを伝えた。
「記憶の書だって?!」
その言葉を聞いたフレイズはすぐに細身の剣の先をジャニファに向けた。
「お前に私が倒せるとでも?」
「その余裕、後悔させてみせるよ!針葉斬撃!」
「やる気を出しているところ悪いが、お前たちの相手をする気は無い」
そう言ってフレイズの攻撃を避けると身を翻し、突然美玲に近寄ったかと思うと、素早く背後に回り込みんで美玲の左脇の下から腕を差し入れて抱えると羽を羽ばたかせて宙に飛翔した。
「……っ?!」
床が遥か下に見える。美玲は恐ろしさに体を硬直させた。
「雷撃で水の娘を傷つけられたくなければ、武器を捨て、そこをどけ」
その言葉にフレイズと市原はどうすることもできず、ジャニファに従って武器を床に捨てることしかできなかった。





