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お色直し

 ジャニファは付け毛を外してドレスを脱ぎ捨てると、黒のビスチェに細身の黒のテーパードパンツの姿になった。靴はヒールの低い編み上げブーツで、パンツの裾をブーツに入れている。

挿絵(By みてみん)

 ドレス姿よりも動きやすそうな格好だ。


 黒で統一された衣装に、露わになった肩から胸元にかけての白い肌が眩しいくらいだ。


 脱ぎ捨てられたドレスと付け毛はジャニファがかざした金の腕輪に吸い込まれて行った。


「どうして、ここに……?」


 なぜ夜の境界でトルトと戦っているであろうジャニファが城の中にいるのかが理解できず、美玲は混乱した。


「お前には関係ない。そこをどけ」


「教えて!この粉はあなたの?なぜ私の部屋にあったの?!」


 両手を広げて進路をふさぎながら尋ねるが、ジャニファはチラリと美玲をみただけで何も答える気は無いのか、ズカズカと歩みを進める。


「何故だと?私があの部屋から入ったからだろう」


 通せんぼしながら後退る美玲を真っ直ぐ見つめて、当たり前だろうとジャニファが答えた。


 氷のようなその水色の眼差しに美玲は足がすくむようだった。


「そしてその粉は、私の黒い羽を隠すためのものだ。まぁ、もう不要なものさ」


 そう言って羽をばたつかせると金の粉は全て取れ、その下から夜の闇の色をした羽が現れた。


「時間が経てば消える。心配するな」


「心配なんてしていない」


 ジャニファの言葉通り金の粉はやがて見えなくなった。


「ミレイ様、いかがなさいましたか?」


 美玲の声が聞こえたのか、キッチンにつながる通路からポワンが出てきた。


「トルト、様?そのお姿は一体……」


 驚いてまじまじと自分を見つめるポワンのつぶやきを受け、ジャニファが鼻で笑った。


「やはり我らはまだ、そんなに似ているのか」


 心底不快そうに呟かれたその言葉に、ネフティから聞いた姉妹喧嘩のことを思い出した。


「トルトさんじゃないよ!それよりもポワン、修練場にいって市原とフレイズを呼んできて!」


 筆先をジャニファに向け、牽制ながらポワンに告げる。


「殺傷力がないものとはいえ武器を人に向けるのは感心しないな、水の娘よ」


「あなたがおとなしくすればやめるわよ」


 いつでも魔法を出せるように意識を精霊石に集中する。絵の先端の筆先の形をした精霊石は淡く水色に点滅をしている。


「フレイズとナイト様たちを?あの、でもミレイ様は……?」


「あたしは大丈夫だから、行って!ポワンだけが頼りだよ!」


「は、はい!」


 弾かれるようにポワンは修練場へと飛び立った。


水皇セイレーン!」


 美玲の呼びかけに応じて水皇セイレーンが姿を現した。


 そして美玲の意を汲んだ水皇セイレーンが三叉鉾を掲げると、水のカーテンがジャニファと美玲の周りに現れ、進路を阻んだ。


「ふん、そんなもので阻めるとでも?雷斬波トニトルス・グラディウス!」


 腰に下げていた短剣を抜き、その身に雷を纏わせると一振りで水のカーテンを切り裂いた。


「え……っ?!」


 霧となって消えたカーテンに、美玲と水皇セイレーンは呆然とした。こんなにすぐ消されるとは思わなかった。


 美玲は精霊石により一層集中した。精霊石の輝きが増しまばゆい光を放ち始めた。


「お前と戦う気は無い。目的のものは手に入れたからな」


 短剣を鞘に収めながらジャニファは不敵な笑みを浮かべた。まるでお前は相手にならないと言われているようで、美玲はくやしさに唇を噛んだ。


「目的の、もの……」


 美玲のつぶやきが聞こえたのか、ジャニファはヒップバッグから紐でくくった二冊の本を取り出してみせた。


「記憶の書だ。これはあいつの手元においてはいけないものだ。また“書き換えられてしまう”からな」


「それ、どういう意味……?!て、ちょっと!」


 そういえば地精霊谷ノーム・バレーでもバライダルとジャニファが“書き換えられた”と言っていたなと思い出していると、その隙にジャニファは黒い羽を羽ばたかせて、銀の鱗粉を撒きながら美玲の頭上を飛び去って行ってしまった。


「逃がさない、水皇セイレーン、おいかけるよ!」


 別館に続く渡り廊下から外に出る気だろう。記憶の書を持ち去られたまま見逃すわけにはいかない。


 宙に浮く水皇セイレーンは頷くと、美玲を抱きかかえてジャニファの後を追った。

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