エンカウント
渡り廊下から本殿に入り、すぐの角を曲がる。キッチンが近いのか、四時間目になると校内に漂いはじめる給食の美味しそうな匂いと同じものが漂ってきて、美玲のお腹が音を立てた。
「えへへ、鳴っちゃった」
「ふふ、修練おつかれさまです」
クスクスと笑いながらポワンがねぎらう。彼女の見た目は美玲より幼く見えるのに大人っぽいことをよく言う。
妖精の実年齢はよくわからない。
六年生よりも大人っぽい仕草をする彼女に、もしかしたら一年生のように見えるポワンは、ずっと大人なのかもしれないと美玲は思った。
「そういえば先ほどトルト様が別館にいらしていましたよ。ミレイ様たちは修練場にいらっしゃるとお伝えしましたが、お会いになられましたか?」
「トルトさん?ううん、会ってないよ」
「あら、そうですか……?」
ではあれは蝶の羽を持つトルトのものだろうか。だが今まで妖精たちが羽の粉を落としているとこは見たことがない。
隣を歩くポワンの羽からは少しだが光の粉が舞っているのが見えた。だが転々と落ちている粉のように床に溜まることはなく、キラリと光ってそのまま消えてしまっている。
「何か用があったのかな……でも今はきっと夜の境界にいるよね」
トルトは夜になると活発になるアイーグが妖精の国に入らないように結界を張りに行っているはずだ。
美玲と市原もアイーグが妖精の国に入らないようにするのを手伝ったことがあるが、今は女王を目覚めさせるために、二人の身に何かが起きてはいけないと城で待機しているよう言われているのだ。
「そうですね。あ、ミレイ様ありがとうございました。あとは、私が」
キッチンに着いたのだろう。奥からは包丁の音や何かを炒める音が聞こえてくる。それからとても美味しそうな匂いも。
ポワンは美玲からバスケットを受け取ると、それを持ってキッチンの奥に入っていった。
「あれ?」
また粉をたどろうとして今来た通路を振り返ると、視線の先にシャンパンゴールドのドレスに身を包んだトルトがいた。
「トルトさん?」
駆け寄ろうとした美玲だったが、途中で足を止めた。
違う、目の前のこの人はトルトじゃない。だってトルトは今、夜の境界にいるはずだと先ほどポワンと話をしたばかりだ。
「誰?」
嫌な予感がして武器を構えた。トルトに似ていてトルトじゃない人といえば、一人しか心当たりはない。
「分かっているのだろう?水の娘よ」
その声を聞いて確信した。
瞳の色も違う。
彼女はトルトではない。何度もあっているからかる。彼女トルトの双子の妹で、常夜王バライダルの部下、ジャニファだ。





