宣戦布告?
見慣れたものだと思っていたけど、やはり整ったその顔立ちで、吸い込まれそうな程透き通った緑色の瞳に見つめられると、何だかむず痒くなってくる。
「……何二人して見つめあってんの?」
「い、市原っ?!」
呆れ声に驚いて振り返ると、面白くなさそうな顔をした市原の顔があった。仲間外れにされたのだと思ったのかもしれない。
「いちゃつくなら他所でやれよ」
「は?違うし。そういうこというのやめてよ」
恥ずかしがるそぶりを見せながら言う市原に、からかっているのだとわかった美玲がカチンときて低い声で言い返すと、市原は肩をすくめた。
「まぁいいや。永倉、飲み終わったらついでに俺が持っていくよ」
「へ?あ、ありがとう」
美玲としては別にいいことでもないのだが、せっかくだからと空になったグラスを市原に渡した。
だが、なぜか市原はワゴンの方を振り向きながら、美玲が渡したそのグラスを口に持って行き、「あっ」と止める間もなくそれに口をつけてしまった。
「ちょっと、それうちのだけど?!」
「あー、間違った……悪りぃ」
「うぅー……」
軽く謝ってきた市原にどう反応をしたらいいかわからず、唸る事しかできない。
だが美玲とは違って市原は平然としていて、美玲は自分だけが過剰に意識しているような気持ちになり、何とも居心地が悪かった。
「俺とも、間接キスしちゃったな」
そして急に市原に顔を覗き込まれ、あまりの近さに美玲の心臓が跳ね上がった。
体温が一瞬で上がった。
自分でもわかるほど、顔が熱い。
「ミレイの顔、トマトみたい」
「そんなことない!」
能天気なフレイズの言葉に泣きたくなってしまって。両手で真っ赤になった頰をなんとか隠して首を振った。
市原のことを意識しないようにしているのに、美玲の今のドキドキしている気持ちを見透かされてしまうような恥ずかしさに、今すぐ消え去りたい気持ちだった。
市原はフレイズに目を向け、まだミレイの隣に座ったままの彼を見下ろしてニヤリと笑うと、人差し指を彼に向けた。
「フレイズ、俺、あんたには負けないから」
「えっと、俺たちなんかの勝負してたっけ?」
同じ風属性だからかな、とフレイズは頭をかきながら首をかしげた。
「風主を呼べる時点でナイトの方が勝ってるよ」
「そう言うことじゃねーよ!」
「え?何?どういうこと?ミレイはわかる?」
「し、知らない!市原ふざけすぎ!」
ありえない、と立ち上がって怒りにまかせてドカドカと大股で歩き、修練場の出口に向かった。
「おい、どこ行くんだよ永倉」
「部屋!休むの!」
早口に答えて修練場のドアを開くと美玲は外へ飛び出した。
「食事の時間になったら呼ぶからねー」
そして呑気なフレイズの声を背に、部屋まで全速力で駆け出したのだった。





