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目印はスターチス

 やはり本殿は華やかだ。先ほどまでいた別棟に比べ、花の細工が随所に施されている。


 時々すれ違う妖精たちをトルトのフリをしてやり過ごしながら歩き回り、ようやく見つけた、目の前にそびえる扉。


 スターチスの花が彫られている、焦げ茶色の木の扉だ。


「スターチス……記憶の花だな」


 ジャニファは直感でその扉が記録室のものだと理解し、扉を開こうとした。だが鍵がかかっており、ノブが引っかかって全く動かない。


「フン、こんなもの」


 鍵穴に爪をつけ、小さな雷撃を流すと、衝撃で何かが外れた金属音が聞こえた。


 そして扉を開いて中に入ると、素早く後ろ手に閉め、鍵をかけた。


 部屋を見回すと、まるで迫り来るような、周囲を囲む書棚にぎっしりと詰まった書物に出迎えられた。


 その迫力に驚いて思わず大口を開けて見回してしまう。


 紙の匂いが不思議と落ち着く。妖精の国の記憶が詰まった空間で、間抜けな顔をしていたことにしばらくして気づいたジャニファは、誰もいないのになぜだか恥ずかしくなって咳払いを一つした。それから書棚に入る本の背表紙を一冊ずつ指で追った。


 どれも分厚い本で、金のスターチスが飾られている。記憶の書だと一目でわかるものだ。


 何冊もある記憶の書の中からとりあえず、と一冊取り出すと、開いてその文字列を目で追うが、すぐに肩を落とした。


 記憶の書には妖精の国で起こった出来事が記録されている。


 ジャニファが開いた本に書いてあったのは、数代前の女王の時に開かれた夏至祭のことだった。


「これじゃない……一番新しいものはどこだ?」


 辺りを見回しても、整然と並ぶ背表紙に区別がつかない。


「えぇい、いまいましい……っ!」


 のんびりしている暇などないのにとイライラして頭をかく。


 付け毛と髪飾りが邪魔で床に叩きつけたくなったが、ここから出る時に必要になるので、大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせる。


 その時ふと目に入った赤い背表紙。青の背表紙の中に一冊だけあるその本になぜだか呼ばれたような気がして、それを取り出してページをめくってみた。


「新しいものではないが、これは……!」


 そこには修正された跡のあるものだった。修正した筆跡はトルトのものだ。彼女の筆跡を忘れるものか。


 ジャニファは視界の端にうつった丸テーブルの上に、一冊の青い本があるのを見つけ、近づき開くと、それは一番新しい記憶の書だった。開いたページはまだ文字が書かれていない空白の部分があった。


 ジャニファは下着の中に隠していた紐を取り出すと、本を二冊重ねて十字に結わえた。


 それを肩から下げ、ジャニファは息を潜めて扉の取っ手を握って外の気配を伺った。


 扉の向こうには足音も、羽の音もしない。


 廊下は水を打ったように静かだ。


 音を立てないように息を潜めて鍵を開け、ゆっくりとノブを回して少しずつ扉を開く。


 顔を出して左右を確認してから部屋を出ると、入った時と同じように鍵穴にちいさな雷撃で衝撃を与えて施錠した。


 目的のものは手に入れた。あとは脱出するだけだ。


 記憶の書を脇に抱え、ジャニファは誰もいない廊下を足早に、しかし神経を張り巡らせながら進んで行った。

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