力の証明
かれんの呪文が放たれると同時に、火の精霊石から光が飛び出したかと思うと、激しく降る雨のようにランドラゴンーREXーに向かって火の矢が降り注いでいく。
「グリルさん、ジルビアさん、大丈夫ですか?!」
ランドラゴンーREXーが降り注ぐ火の雨にひるんだすきに、かれんと志田は素早く二人の元にかけより、ぐったりしたジルビアを地王の背にのせた。
「炎帝円舞!」
たたみかけるようにさらにかれんが唱える。火の雨に重ね、炎帝が火の粉を巻き上げてランドラゴンーREXーを炎の中に閉じ込めた。
「カレン、サトル、今のはお前たちがやったのか?」
驚いて尋ねるグリルに少し照れながらも二人がうなずくと、隊長二人は感心したようにため息をついた。
「すごいのです〜」
隊長二人から感心され、二人は照れ臭くて、くすぐったく頭をかいた。
「よし、じゃあ後は俺に任せろ。カレンとサトルは……」
「待ってください。最後まで私たちにやらせてください」
その時、けたたましい咆哮を上げ、炎帝が作った炎の渦からランドラゴンーREXーが飛び出し、向かってくるのが見えた。
それを迎え撃ったのは炎帝だ。
「……できるのか?」
「元から私たちをランドラゴンと戦わせるつもりだったんですよね?」
「だが、あれと戦わせる予定では……」
炎帝はランドラゴンーREXーの注意を弾くため、攻撃をヒラヒラとまるで踊るようにかわしていく。
蝶を追う猫のように、ランドラゴンーREXーは炎帝を夢中になって追いかけ始めた。
グリルたちが部下の鍛錬で戦っていたランドラゴンとは違う、とても凶暴だと言われるランドラゴンーREXーだ。
ましてやかれんと志田は子どもで、人間だ。
手足を使うように精霊の力が使える妖精とは違い、自分たちがもつ精霊石もまともに使えない二人があの凶暴なものと戦って無事に済むわけがない。グリルは首を縦に振ろうとしなかった。
それに二人をこの場所に連れて来たのは、女王覚醒の儀式のために、力のコントロールを身につけてもらうためだ。
ランドラゴンーREXーと戦わせてその身に何かがあったらと思うと、許可はできなかった。
「大丈夫ですから、俺たちに任せてください」
しかし、二人の力強く真剣な眼差しに、明らかにここに来たばかりの時とは違う、二人の強い意志を感じられて、ついにグリルは許可を出した。
「ねぇ、地王があいつに大人しくしろって言ったらそうならないの?」
『そうなるのならとっくにしておるわ』
かれんの問いかけに、ジルビアを背に載せた地王は諦めたというように首を振った。
『ためらうことはない。ランドラゴンはすべて土の子。大地にただ帰るのみよ。またいつでも会える』
地王の言葉にかれんと志田の心の中にあったためらいが消えた。
「久瀬」
「志田くん……」
二人は視線を合わせると頷いた。自分たちにもきっとできる。
地精霊谷で見た美玲と市原のように。
きっと。
この場にある火と地の属性を全てかき集めるように、志田は両手を前に突き出し、かれんはバトンを天に掲げて武器についている精霊石に意識を集中した。
二人の周囲に集まる火と地の精霊たちが輪をなして周囲を舞う。赤と黄色の光が連なり、それぞれの要素をかき集めているのを感じた。
「炎帝、さがって!」
かれんの言葉に炎帝が大きく宙返りしてランドラゴンーREXーから距離をとった。ランドラゴンーREXーは動き止めて炎帝を目で追っている。
そして炎帝がかれんの傍に来た瞬間を狙い、かれんと志田は集めた土と火の要素を解き放った。
「溶岩乱舞!」
二人の号令に応じるようにして、煮えたぎった溶岩の塊がランドラゴンーREXーに向けて飛んでいく。次から次へと、崖下にあるマグマから熱気を放ちながら飛び出していった。
かれんと志田は精霊石に込める力を一層強くした。それぞれの精霊石が輝きを増していく。
少し前まで力の使い方など何もわからなかった二人だが、今は違う。
むしろこの合体技を使うのがとても懐かしく感じた。操られていた時に使ったことがあったのかもしれない。
「炎よ、溶かして!」
「大地に帰れ!」
二人の言葉に、ランドラゴンーREXーに向けてさらに溶岩が飛んで行く。
ランドラゴンーREXーは溶岩の熱に溶かされ、みるみる地に吸い込まれ、消えてしまった。
「倒しちゃったのです……さすがなのです」
虚ろな目をしながらも、見届けようと気を張っていたジルビアは力尽きたのか、目を閉じて深い眠りに就いてしまったようだ。
「本当に倒してしまうとはな……驚いた」
グリルはそんなジルビアを地王の背から抱き上げた。妖精の国に帰る支度をしなければならない。
「これできっと、元の世界に帰れるよね」
まだ熱を持って赤く光る、溶岩の塊となったランドラゴンーREXーを見つめながら呟いたかれんの言葉に、志田が無言で頷いた。
二人のその表情は晴れやかで、自信に満ちていた。
もう足手まといにはならない。女王を起こし、四人で絶対に元の世界に帰れるという確かなものが二人の胸の中に湧き上がっていた。





