克服
さっきまで透明な壁があった場所を通り過ぎると、ランドラゴンーREXーがその大きな口を開け、ドスドスと地響きをあげながらグリルとジルビアを飲み込もうと二人に迫っていた。
ぐったりとしたジルビアを抱え、グリルはその大きな口からなんとか逃げようと駆け回っているのが見える。
「大変!グリルさんたちが!」
飛んだり地を走ったりと逃げまどう二人の姿に、どうにかしなければとかれんと志田は顔を見合わせ、頷いた。
自分たちは子どもだけど、ここの世界では自分たちにもできることがたくさんある。
今まで美玲や市原が戦えるから、自分たちは力を使えなくても大丈夫だという考えが二人の心のどこかにあった。
でもここには美玲と市原はいない。
今あの二人を助けられるのは、自分たちしかいないのだ。
『恐れるな。ワシがついておるぞ』
志田は地王に頷くと、手の平を地面に触れた。グローブに飾られている精霊石が淡い黄色の光を放ち始める。
それに応じるように、手のひらに感じる、地属性の力の動きが活発さを増していく。
「水晶群!」
志田が唱え終わるのと同時に、ランドラゴンーREXーの正面に水晶の壁が出来、勢いよく跳ね返された巨体が地響きをあげながら倒れた。
「俺、できた……!」
間一髪グリルたちをその牙から守ることができた。
だがランドラゴンーREXーはすぐに起き上がり、水晶の壁を砕こうと体当たりを始めた。
激しくぶつかる音が響き、崩れるのも時間の問題だろう。だんだんと崩されていく壁のかけらがキラキラと光を反射しながら落ちていくのが見える。
『気をぬくでない。あれに地の力を送り続けるのじゃ。ワシも手伝おうぞ』
地王に言われるがまま、志田は水晶の壁を維持しようと集中した。淡い黄色の光が水晶の壁を包み、体当たりによって欠けた部分を直していく。
しかし何度直しても体当たりを繰り返され、志田はどんどん力を消耗しているのが見てわかるほどだ。
「このままじゃ、追いつかない……っ、壊される……っ!久瀬……頼む、なんとかしてくれっ!」
『ぬぅ、これほど、とは……はしゃぎおって。これからはたまに外に出してやらんといかんかのう』
地王はランドラゴンーREXーの暴れぶりが、ずっと大地で眠らされていたためだと思っているようだ。
お願いだから凶暴なこのランドラゴンをこの神殿の外に出すのはやめてくれ、とその場にいる誰もが思った。
今でさえ苦戦しているのに、誰にもとめられる気がしない。
志田は水晶の壁を維持するために地面にあてた手が離せない。悲鳴混じりのその声にかれんはどうしたらいいかわからず腰が引けた。
『自分を信じよ、カレン。ここは火のふるさと。火にとって自由な場所じゃ。わらわもついておる!』
炎帝の励ましに、志田もできたんだ、自分もきっとできる、とかれんは自分を奮い立たせてバトンを強く握りしめ、ランドラゴンーREXーに視線を向けた。
今まで気づいていなかっただけで、かれんのそばにはずっと炎帝がいて、どうすればいいか、何を唱えればいいのかを教えてくれていたのが今ならわかる。
もっと早く、そのことに気づいていたらと悔しい思いもするが、過ぎたことをあれこれ考えるのはやめだ。
今は目の前のランドラゴンーREXーに集中しないと、とかれんはバトンの先端をランドラゴンーREXーに向ける。
溶岩に囲まれた場所のさらなる熱気が渦巻いていくのがわかった。周囲を舞う火の要素が集まってきたのだ。
美玲が地精霊谷で、少ない水の要素を集めるのに苦労したと言っていたが、今はそれがどういうことかよくわかる。
ここは地精霊谷での美玲の時とは違い、ふんだんに火の要素がある場所だが、多すぎる要素をまとめ上げるのもかなりの集中力が必要だった。
「久瀬……ッ、俺、もう限界……っ!」
ついに修理が追いつかなくなった水晶の壁が砕かれ、ランドラゴンーREXーが歓喜の咆哮を上げた。
「火焔弓!」
赤い精霊石の輝きがひときわ大きくなったその時、今だ、と思った瞬間にかれんの口から呪文が勝手に飛び出していた。
不思議なことに、それをもう気持ち悪いとは感じなくなっていて、むしろ炎帝との一体感を強く感じ、安心感すらあったくらいだ。
「降り注げーーーっ!!」
かれんは精霊石を高く掲げてランドラゴンーREXーに向けた。





