記憶の中に見た人
炎帝が指を鳴らした後、再びかれんと志田は色あせた場所にいて、炎に囲まれた自分たちを上から見下ろしていた。
先ほどの光景の続きのようだ。
「ねえ、志田くんあの人!」
岩の柱の影に見かけたことのある人物を見つけた。
切りそろえられた銀の髪をした女性……ジャニファだ。
彼女が何かを投げた次の瞬間、炎はあっという間に消え、かれんと志田は金の輪を額に嵌めて、溶けたアイーグの残骸の輪の中に倒れていた。
そして二人を守るように現れた炎帝と地王を先手必勝とばかりに雷の鎖で拘束し、彼らから光る何かを取り出すと、肩にかけていた茶色のカバンにしまった。
それからジャニファは、気を失ったかれんと志田を両脇に抱えると、その場からこつぜんと姿を消したのだった。
映像はそこで終わり、周囲の景色も元どおりになっている。
「あの人が助けてくれたのかな……」
「わからない……」
「あの人がいなかったら、私たちは間違いなく、今ここにはいなかったと思う」
「でも、あいつは敵なんだろ」
志田の言葉にかれんも首をかしげる。
「うん……でも、本当は味方、とか?」
「えー?さすがにないだろ」
地精霊谷での戦いを思い返してみても、志田と同じようにそうは思えないとかれんも感じたが、心のどこかでそうだったらいいな、と期待する気持ちもあった。
かれんと志田の命が彼女によって救われたのは事実なのだから。
『かれんよ。あのおなごはな、我らの精霊石を奪い、それに何か細工をしたようでの。情けないことに我らも操られてしまっていたのだ』
かれんたちが持っている武器は、その奪った精霊石で、ジャニファが作ったものだとネフティも言っていた。
あの金の輪を美玲たちが破壊してくれて、ネフティが武器を直してくれなければ、今も自分たちは操られていたままだと思うとゾッとした。
もしかしたら今も美玲たちと戦い続けていたかもしれない。
「でも、それでも……」
炎帝の言葉をきいても、どうしてかジャニファを敵だとは思えなくてかれんはうつむいた。
『フォフォフォ、まあすべて終わったことよ。さて、そろそろ力試しといこうじゃないか。我らの力、その方らの意志の力で使いこなせるかどうか見極めてやろう』
地王はそういうと、足を一回踏みならした。するとガラスが割れるような音がして、見えない壁があったあたりにキラキラと光が舞っていた。
『壁は無くなった。そなたらの力であのランドラゴンを土に還してみよ。もちろん、わらわたちの力も貸そうぞ』
「やっぱりあれと戦うことになるの……?」
『元々ここではあやつらの部下とやらが鍛錬のために、老公のランドラゴンと戦うために訪れておったのじゃ。あのランドラゴンーREXーは老公の秘蔵っ子でな。普段は出さぬのだが、のう』
『左様。あれと戦い、勝てれば大きな自信が得られるであろう。どうだ、やるか?』
ランドに問われ、視線を向けた先では、もうもうと上がる土煙とともにランドラゴンーREXーの咆哮らしいものが聞こえてくる。
どちらにせよ自分たちはランドラゴンと戦うことになっていたらしい。
土煙で何も見えないが、激しい戦闘が繰り広げられているのは確かだ。
あの中に飛び込んで、勝てる自信なんてない。
グリルたちの足手まといになるかもしれない。
「勝てるかな……私たちも美玲や市原くんみたいに戦えるかな」
「違うよ久瀬。勝てるかな、じゃダメだ。勝つんだ。俺たちは!」
いつまでも怖がっていたら先に進めない。今、踏み出さなくていつ踏み出すと言うのだ。
でもそう言う志田の体は震えたままだ。冷や汗だろうか。額には汗のしずくが浮かんでいる。
「志田君……」
「怖くない!元の世界に帰るために、俺たちも頑張るんだ!」
あいつらだけに任せきりにはしたくない。自分たちにその力があるというのなら、なおさらに。
志田の言葉に驚いて目を見開いたかれんは、ゆっくりと頷き、志田とともにグリルとジルビアの元へと駆け出した。





