ジルビアの隠し爪
地響きを立てて倒れたランドラゴンーREXーは、その巨体のためかなかなか起き上がることができないでいる。
そこに駄目押しのように拳をたたき込もうと空中から急降下したグリルだったが、そうはいくかと太い尻尾に払われ、石柱に強く体を打ち付けた。
衝撃で石柱にヒビが入り、小さくはない石のかけらがその根元に崩れて、グリルに追い打ちをかける。
「むー、やはり最強と言われるだけあって、手強いですの……」
「呑気にしてる場合か!ジル!」
痛みに咳き込みながらグリルが叫ぶ。そこへまるでハエたたきのように落ちて来た太い尻尾をギリギリで横に転がって避けて荒い息をついた。
「そろそろいけるかな……よし、本気出していきますか!」
首の関節と手のひらの関節をポキポキと鳴らし、肩を鳴らして大きく深呼吸する。
「現れよ!ランドラゴン・マグニ!!」
右手で拳を作って地面に一撃を打ち込むと、それに応えるかのように地中から振動を起こしながら巨大なランドラゴンが現れた。
「ジル、いつランドラゴンを喚べるように?」
「いやー、まぁ能ある鷹は爪を隠す、なのですよ。ささ、ここはマグニに任せてグリルさんは回復を」
そう言いながら驚くグリルに治癒術を施し始めた。背中の痛みが引いてくるとともに、一つの疑問が頭に浮かぶ。
ランドラゴンは地属性の妖精の中でも限られた力の強いものしか呼び出せないはずで、ネフティ以外にいたとは、グリルの記憶が正しければ聞いたことがない。
そんなグリルの気持ちを察したのか、ジルビアは困った表情を浮かべた。
「実は昔、ネフティ様にご教授いただいていたんですよ〜。でもまだ慣れてなくて喚び出すまで時間もかかるし、力の消費が激しいので頻繁には使えなくて」
言われてみればひどく疲れたような顔をしている。
「大丈夫か?俺の回復はもう大丈夫だぞ」
「ご心配どうもです。大丈夫ですからまだ全快でないけが人は大人しく治療されてください」
心配するグリルに、自分は修行が足りないのだと頭をかきながらジルビアが舌をペロリと出した。
「ネフティ様はランドラゴンを何体も同時に召喚できるのです。いつかあの方みたいに使いこなしてみたいものです」
ランドラゴンーREXーのにらみ合ったままのランドラゴン・マグニの背には、ゴツゴツとした鎧のようなものに覆われ、太く短い前足と後ろ足には太い爪。そしてその尻尾の先にはハンマーのように見えるコブが付いている。
「さあマグニ、行くのです!」
まるで雷のような咆哮をあげながら突進して来るランドラゴンーREXーに向け、鋭く甲高い鳴き声をあげてそのずんぐりとした巨大で向かい、体当たりをしてその進行を阻んだ。
ランドラゴンーREXーは大きく口を開き、ランドラゴン・マグニの背にかみついたが、ウロコが幾重にも重なって鎧のように硬くなっているそこに傷をつけることはできない。
「マグニの硬さをあじわうがいいのです……!」
ジルビアは不敵な笑みを浮かべながら呟いた。グリルは完全に回復するまで、癒しの光に包まれながらその二体のランドラゴンの戦いを見守ることにした。





