見せられたもの
やがてまぶたの向こうにまぶしさを感じられなくなり、二人は恐る恐る目を開いて辺りを見回した。
「なんか変だね……」
さっきまで目の前にいた炎帝と地王の姿はなく、周りの景色は変わらないのに、少し色あせていた。
背後を振り返ってみたが、見えない壁もグリルとジルビアの姿もなかった。
まるで別の世界に来たような不思議な感覚だ。
「なあ、そういえば花が少なくないか?」
志田の言葉にハッとしてみると、確かに神殿の床に咲き乱れていた花々はなく、割れていた石板もヒビなどなく、そのまま建ってそこにあった。
「ねぇ、あれって……」
祭壇のところにはまだ学校にいた時に着ていた服装をしているかれんと志田の姿が見えた。
「え、なんで?俺らがあそこに?」
ここにいるのに、と二人は顔を見合わせ、とりあえず自分たちの様子を石柱のかげから伺うことにした。
「え、待って、ウソでしょ……!」
隠れる時体を支えるために柱に触れようとしたら、その手は柱に触れることができずに通り抜けてしまった。
「俺たちどうしちゃったんだろう……」
まさか幽霊になってしまったのか、と青ざめて顔を見合わせた二人の視界の端に、黒くうごめくものが横切った。
「あ、アレ、この間見たやつと同じだ」
黒くドロドロした体に、赤々と光る目。地精霊谷で美玲と市原が戦っていたアイーグというものに、大きさは違うがよく似ている。
小さなアイーグたちはうごめきながらかれんと志田を取り囲み、その輪をどんどん小さくして行く。
じりじりと小さくなって行く輪のなかで、かれんが身を小さくした。そしてその次の瞬間、かれんを中心に発生した舞い踊る炎の渦が、アイーグたちに断末魔をあげるひまも与えず飲み込んでいく。
「思い出した……そうだ、ここで私たち……」
アイーグに囲まれ、恐怖に力を暴走させてしまったことをかれんは思い出した。
過去の自分が出した炎は舞い続け、壁や床に焦げた跡を残していく。
炎が神殿の中を埋め尽くし、中心にいる二人も炎に飲み込まれそうになっていた。
「そう……久瀬が出した火の……海に……俺は囲まれて……」
炎の渦を見てガタガタと勝手に震えだした体を志田は必死で止めようと両腕をさすったりするが、止まらない。
『そうじゃ。その記憶がそなたらのチカラの邪魔をしておるのだ』
「炎帝」
いつの間にか背後に炎帝と地王が居り、周りの風景にも色が戻っていた。
「俺たち、今……何?」
『この地に残る、おぬしらの記憶を見せたまでよ』
目を細めて地王が頷いた。
『サトルよ。まだ震えは取れぬか?』
額を志田にくっつけると、黄色く暖かな光が地王から発せられた。
「あ……ったかい……」
その光に包まれ、志田の体と心はだんだんと落ち着きを取り戻して行った。





