呼び寄せられたもの
女性の姿をした炎帝は赤い髪を金の飾りでまとめあげ、きりりとした眉が彼女の気位の高さを物語っている。
ルビーのような赤い瞳で真っ直ぐに見つめられ、かれんは少し……いやかなり緊張をした。
その炎帝の隣に立つ、大きなトカゲの姿をした地王は、ゆったりと瞬きをして大きなあくびをひとつした。
見た目は少し怖いが、彼の気性の穏やかさは仕草から見て取れる。
しかし突然目の前に現れた二体の上級精霊に、かれんと志田は驚き緊張した。
まさかグリルが言っていた実戦とは彼らと戦うということだろうか、と恐る恐る振り返るが。
「なぜ炎帝と地王が……?」
「おかしいですね……ランドラゴンたちとの戦闘になるはずでしたのに」
だが壁の向こうのグリルとジルビアの様子と、戦闘態勢を取らない二体の上級精霊の様子からもそうではないのだと察した二人は顔を見合わせて首をかしげた。
『我らはそなたらと話がしたくてな。邪魔されぬようにしたまでよ』
「話、ですか?」
「カレン、どうした、何がどうなってるんだ?」
「なんて言っているのです〜??」
地王たちの言葉はグリルたちには聞こえないらしい。
二人は見えない壁をなんとか破ろうとそれを叩いて神殿内に間抜けな音を響かせた。
『あぁ、やっかましいのう』
『だから普通の音にすればよかったのだ。遊び心を出すから……』
炎帝が苛立ったように眉間にしわを寄せ目をすがめて呟くと、同意するように地王が右の前足を一回、ドシンとふみ鳴らした。
すると応えるようにどこからか聞いたこともないような獣の咆哮が聞こえてきた。
『おぬしらはそこで遊んでおれ』
炎帝がグリルたちに向けてゾッとするような笑みを浮かべたそのあと、再び今度は背後で獣の咆哮が大きく響いた。
「な、何……?」
恐る恐るかれんと志田が振り向くと、見えない壁の向こう、グリルとジルビアの背後に見えたのは、図鑑で見たことしかない巨大な生物だった。
巨大な頭に不釣り合いな、小さな腕には少しの赤い羽毛が生えている。なだらかな胴体に太い足、そして太い尻尾をもった、かつて地上に生きていたという巨大な爬虫類にそっくりだ。
「うそ、だろ……あれ、ティラノサウルスじゃねーか?!」
映画にもなった、かれんでさえ知っているその恐竜の姿に志田は興奮して叫んだ。
「いえ、違うのです、サトル。あれは最強のランドラゴンとも言われている伝説の、“ランドラゴンーREXー”なのです。誰も見たことがない、あのランドラゴンマスターとも言われるネフティ様でさえ扱えるかもわからない非常に気の荒い、恐ろしいやつなのです……」
早口で志田に訂正をしたジルビアは、弓を構えてグルグルと唸っているランドラゴンーREXーからじりじりと下がって距離を取る。
「ジル」
グリルは拳を構え、ジルビアを守るように前に出た。
「あ、あの二人に何をする気ですか?!」
『ん?わらわたちの話を邪魔しないようにあちらで遊んでもらうだけだ。心配するな。あの妖精らを我らは知っておる』
『あやつらは隊を率いる長じゃろう。たまにここにきておるのを見ていたからな。REXの相手は務まるはずだよ』
二人の妖精に迫る嫌な予感に青ざめてかれんが叫ぶようにいうと、大したことのないように二体の上級精霊は肩をすくめて答えた。
『あやつらのことなど気にせず、おぬしらはここで何があったか見てくるがよい』
「えっ?!あ……待って!」
「何、まぶしい……っ!」
炎帝の額の飾りがキラリと光ったと思ったら、まばゆい光が周囲にあふれ、目を閉じる間も無く広がっていくその光の波にかれんと志田は飲み込まれた。





