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狙うものは

 藍色の岩壁にある、月の光のように淡く輝く水晶群に壁を伝う小さな滝から跳ねた雫が滴り落ちている。


 それは鉄琴のように透き通った音を奏で、暗い夜の国に生きるものたちを慰めてくれるのだ。


 ジャニファは奥の玉座へと続くえんじ色の絨毯の上にいて、三段の小さな階段の上にある玉座に座る常夜王とこよるのおうバライダルに跪いていた。


「それでは行ってまいります、我が主人あるじ


 動きやすいように体にフィットした黒い服に身を包み、その上から同じ色のマントを羽織ったジャニファは、銀の髪を隠すようにフードを深くかぶって挨拶をした。だがバライダルは表情一つ変えず、玉座の手すりにかけた右手の指を少しだけ動かしただけだった。


「我が主人あるじ、いかがされましたか?」


 手すりに肘をついた左手を顎に当て、思案にくれているようなバライダルに少し遠慮しながらも声をかけると、バライダルは紫色の瞳を、長い金色のまつげが飾る瞼で伏せた。


「“書き換え”はどの程度進んでおるのだろうか」


「わかりません。ですが地精霊谷ノーム・バレーでそれがわかった今、事態をこのまま放置するわけにはいきません」


「世界の構成の記憶をなくしているとは……」


「由々しき事態です。かつての世界は……分断される前は」


「よい、過ぎたことだ。やはり我が妖精の国を手に入れる他に方法はあるまい」


 昔の話を持ち出してきたジャニファの言葉を遮り、バライダルは疲れた様子で背もたれに身を投げ出すと、両の手で顔を覆って大きく息を吐いた。


「今は眠るの方も我のことを覚えてくれているのだろうか……?」


「我が主人あるじ……」


 初めて見る憔悴し、弱気な主人あるじの姿にジャニファは動揺し、言葉に詰まった。


「すまない、そなたには危険なことばかり頼んでしまうな」


「我が主人あるじ……、とんでもございません、あなた様にこの羽を賜って命を繋いだ私は、あなた様のために全てを投げ産む覚悟にございます」


「我にはそなたのみが頼りよ。頼んだぞ」


 今は敵対関係にある妖精の国の城に潜入するのだ。無事に帰れるとはジャニファも思っていない。


「必ずや、妖精の国の“記憶の書”を手に」


 うやうやしく一礼をし、踵を返して玉座の間を後にしたジャニファは、立ち止まり、腰に下げた短剣の柄を指でなぞった。


 そして顔を上げ、胸の前で拳を強く握って湧き上がって来る不安を吹き飛ばすように駆け出し、やがてジャニファの姿は闇に解けるように消えていった。

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