なりたくないもの
グリルとジルビアは花をかき分けて祭壇を探すのを再開したようで、二人は再び地面の花をあちこちかき分けている。
一緒に探した方がいいのかもしれないとも思ったが、二人には休んでいろと言われたし、志田の具合も心配だ。
だが沈黙が続いていることに耐えられなくなり、かれんは何か話題はないだろうか、と考えを巡らせた。
「……あのさ、久瀬はあいつらのことどう思った?」
「………どうって」
しかし志田の方が話しかけてきて、沈黙は破られた。かれんは少しホッとして、地精霊谷での光景を思い出す。
巨大アイーグに合体魔法を使って立ち向かう二人の姿をまだはっきりと覚えている。
「うん、すごかったよね」
「息もピッタリだった」
その息もピッタリ、と言う言葉が少し心に引っかかった。
「そう、だよね……」
かれんたちがいない間、あの二人はずっと一緒にいたのだ。なんだが胸の中がもやもやしてきてバトンをきつく握った。
美玲に限って市原を好きになることはない、と思っているけど、学校にいた時よりも二人はなんだか仲良くしているようにも見えた。
志田に言われるまではそんなこと思わなかったのに、今思い出してみると、もしかしたら、と不安になってくる。
「久瀬、どうした?」
「ううん、何でもないよ」
志田の声に首を振り、あははと笑い不安を飛ばす。今はそんなことに気を取られている場合じゃない。
かれんは足元に咲く花を一輪摘み取った。
そしてグリルとジルビアの言葉を思い出す。
「いつまでも失敗を引きずってちゃダメだよね……」
バトンの先に付いている精霊石を花に近づける。そして、じっと石を見つめて集中した。
グリルは何と唱えていた?覚えていないけど、頭の中に何かの言葉が湧き上がってくる。
恐れないで、その言葉に声を乗せてみる。
「ーーーっ!」
だがそれは叶わず思わず口を手で抑えた。
やはり、知らない何かに体を任せるような感覚は怖いし、気持ち悪い。
吐き気にも似た、飛び出して来そうな言葉をようやく抑え込んで、力なく花を持ったままの腕を下ろしたかれんは大きくため息をついた。
「やっぱりできない……」
「久瀬……」
気遣うような志田にかれんは苦笑いした。
「私、悔しいの。二人みたいにちゃんと力を使えるようになりたい。市原君に怪我をさせてしまったり、志田君を怖がらせたくない。美玲を困らせたくない。自分の力をちゃんと使えるようになりたい」
かれんの言葉に志田も頷いた。
「わかる。俺だって、あんな風に修練場を壊したくなかったよ……あんなことになるなんて、想像もしなかった」
地精霊谷で魔法を使っていた美玲と市原のように自分たちも出来ると思っていた。だが、実際は出来なかった。
それどころか力が暴走して何もかもがめちゃくちゃになってしまった。
「怖いけど私、強くなりたい。ちゃんと力を使えるようになりたいの。そうでなきゃ……」
続く言葉を実際に出すのは自分の弱さを認めるようで嫌だった。
「あの二人の足手まといに、なりたくないもんな……それに、このままだと帰れない」
同じことを思っていたらしい志田の言葉に少しだけ胸の痛みを感じながらもかれんは頷いた。
「さてと、俺たちも手伝おう」
「もう大丈夫なの?」
かれんの問いに柱の台から立ち上がって尻についた土を払いながら志田は口角を上げた。顔色も良くなっている。
「早く探して、市原たちのところに帰らないとな」
かれんも頷き、立ち上がるとグリルたちの元に駆け出した。





