探しもの
「志田くん、大丈夫?」
まるでバスに酔った時のような蒼白な顔をして、唇まで白くなっている志田を心配して声をかけると、志田は無言で首を縦に振った。
だがそれが強がりであるのはかれんにはわかっていた。
「戻ろうか」
岩の隙間には途切れた場所からゆっくり離れ、志田を柱の陰に座らせた。それからグリルとジルビアの元に行くと、二人は神殿の中央でしゃがんで何かを探しているようだった。
「何しているんですか?」
「うん、ちょっとした探しもの」
「です」
二人はあちこちの花をかきわけながら、顔もあげずに答えた。
探し物をしているのは見ればわかっていたので二人の答えにかれんの口はへの字になったが、自分のきき方が悪かったと思い、かれんは質問を変えた。
「何を探しているんですか?」
「ここに祭壇があるはずなんですよ。でも花が生い茂りすぎて、見つからなくて」
「これは火の元素に反応して咲く花なんだけど、こんなに咲いているのは異常だよ。綺麗なんだけどね。あの焦げた跡といい、ここで何か大きな火の活動があったのかもしれない」
立ち上がってお手上げのように言うグリルに続き、ジルビアも立ち上がって膝についた土埃を払った。
「と、いうことなので祭壇が見つかるまで時間がかかりそうです。二人は休んでいて……って、あらら?」
かれんの背後に、奥の柱の陰に座る志田を見つけたらしいジルビアは、驚いてかれんを見上げた。
「サトルはどうしたのです?暑さにやられちゃいましたか?」
「なんだか具合が悪いみたいで……。グリルさん、花の蜜をまたお願いできますか?」
「俺がやるよりもカレンがやってみたらどうだ?」
「無理です……さっきだって……」
洞窟の花を全て炭にしてしまった。あの綺麗な花をここにも咲く花たちに、また同じように失敗したらと思うと怖くて、黄色い柔らかなスカートの裾をきゅっと握った。
「カレン、君が自分を信じなくてどうするんだ?自分でできないと決めつけるのはもったいないぞ何事も挑戦するのが大切だ」
「ですです。失敗なんて誰でもするのですよ。」
そうは言うものの、無理強いをする気は無いようで、グリルは花を摘んで蜜を出してかれんに手渡した。
「洞窟でのことを気にしているのか?さっきも言ったが、この花は火の元素に反応して咲く花だ。あの焦げた場所には今頃もっと花が咲いているだろうよ」
「そうなんですか……?」
信じられないがここは妖精の世界だ。気休めに行った冗談でもなさそうだ。それに、火の力を操るグリルが言うのだからそうなのだろう。
「そして、その花はここに生きる小さいものたちの命を支える力にもなる。ほら」
グリルか指した方を見ると、てんとう虫に似た昆虫が花の近くに止まり、小さな火を吐いて花から蜜を出すと、その蜜の雫に他の虫たちも集まってきた。
「きっとあそこにも花がたくさん咲いて虫たちが喜んでいるのです」
ジルビアが虫たちをつつきながら微笑んだ。
「物事は動いている。ずっと時が止まっているわけじゃないんだ。あまり気に病むなよ」
「なのですよ」
ハッとして顔を上げるとグリルとジルビアがにっこりと頷いた。
「ありがとう、ございます……!」
沈んでいた気持ちが少し軽くなったかれんは二人に礼を言って志田のところへと急いだ。
まだ志田の顔色は悪く、市原と騒いでいる時のような元気さはみられない。
「大丈夫?これ、グリルさんから」
「久瀬、ありがとう……」
かれんは志田に花を手渡してその隣に腰を下ろした。





