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力の加減

「内なる声、内なる声……」


 グリルの言葉をつぶやいていると、体の奥底、おヘソのあたりから何かが湧き上がってくる、不思議な感覚がしてきた。


 それに共鳴するようにバトンの精霊石も赤く輝きだす。


 だがその時、かれんの脳裏に修練場の出来事が浮かんだ。

 あんなひどい事には二度としたくない、ちゃんと自分に与えられたという火の力を使えるようになりたい。


 かれんは首を振り、修練場の光景と不安を頭の中から追い出すと、グリルがどうしていたか、一つ一つ彼の動作を思い出していく。


 彼はなんと唱えていただろうか。


 しかし、かれんが何かを唱える前に、突然ボッという音がして地面から激しい火柱がたった。

 手に持っていた花は炭と化し、目の前にしゃがんでいたグリルは丸焦げになっている。


「うん、火を喚び出せたのはすごいけど、ちょっと強すぎたかな……」


 炎をその身に浴びながらもアフロヘアになっただけで済んだグリルが黒い煙を吐きながら言った。


「おやおや、大丈夫です?グリルさん」


「ご、ごめんなさいっ!ごめんなさい!!」


 ジルビアに回復してもらいながら、グリルは半泣きになるかれんに優しく笑いかけた。


「そんなに謝らなくてもいいよ。誰でも失敗はするものさ。これから力を抑えることを覚えていけばいい」


 そしてまだ無事だった場所に咲いている花をつみ、小さな火を出して蜜を出すとかれんと志田に手渡した。


 かれんは意気消沈してしまい、花の蜜を飲む気になれず、蜜が溢れるほどになった花を持ったまま、小さくため息をついた。


「久瀬ドンマイ」


「志田くん……」


 花を受け取った志田が隣に座り、励ましの言葉をあえて軽く、明るい調子でかけてきたがかれんの気持ちは晴れなかった。


 口をつけてみた甘いはずの蜜は、なんだか苦味さえ感じる、そんな気がした。


「さて、グリルさんの回復もしたし、今度は私が頑張るのですよ!」


「おー、頑張れ〜」


 すっかり元の姿に戻ったグリルが、ジルビアにやんややんやと手を叩いた。


「こうなったら地精霊ノームに道を尋ねるのです。そしてあわよくば、道を作ってもらうのです。サトルもこちらに」


「は、はい……!」


 手招きされ、緊張した様子で立ち上がり、志田がジルビアの元に向かう。

 ジルビアは地面に両手両ひざをついて志田を見上げた。


 見たこともない翡翠色の瞳に、志田はぼんやりとキレイだなと思っていた。


「手のひらを地面につけてみてください。何か感じませんか?」


 思わずその瞳に見とれていた志田は慌てて言われた通りにジルビアと同じ姿勢になる。


 すると、キーパーグローブ越しにだか、手のひらがもぞもぞとくすぐったくなり、慌てて手を引いた。


「なんかモゾモゾして、くすぐったい……なんだこれ?」


「そうです。そのモゾモゾが、地精霊ノームの気配なのです」


 そう言ってジルビアが志田の近くに移動して来た。


「お、ここの方がたくさんいますね!さてさて地精霊ノームたちに聞いて見ましょうか」


 そう呟き、ジルビアは先ほどまでの飄々とした様子とは違い、真剣な表情になり、目を閉じてゆっくりと深呼吸を始めた。


「みえました!あそこですね。地精霊ノーム、頼みます!振動クエイク


 カッと目を開き、背後の岩壁を振り返り、指で示した。


 すると、ガラガラと音を立てて目の前の岩壁が崩れ、道が現れた。


 奥からはむわりと熱気が漂ってくる。明らかに入口や今居る場所とは比べ物にならないくらいの熱さだ。


「やっぱりここであっていたのです!」


 ほらね、と自信満々でジルビアが指を鳴らした。

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