地と火の部隊長
トルトの問いに力を暴走させてしまったかれんと志田がうなだれて一歩前に出る。
「えっと、俺……」
「あの、私………あの……」
「魔法の練習をしていたんだ。それで、力を抑えきれなくてこうなった」
どうしてこうなってしまったのかよくわかっていないながらも、この惨状にきっと酷く怒られる、と怯えながら話しはじめた志田とかれんの言葉を遮り、市原が説明した。そして修練場を壊してごめんなさいと四人で頭をさげた。
「まぁ、とにかくよ、修練場でよかったじゃないですか。外だったらもっと大変だっただろうに。なぁ、セレー」
「そうだねぇ、ベル。これも不幸中の幸いってやつだと思いますよ、トルト様」
やれやれと伸びをしておどけていうベルナールの言葉にセレイルが応じた。
修練場には騎士たちも集まり始め、魔法を使って修復を始めている。
「それもそうですが、陛下の儀式の時にまた暴走されては困りますね……、グリル、ジルビア」
「は、グリルはここに」
「はいー、ジルビアもここにおりますです〜」
トルトの呼びかけに、修復作業の指示をしていた二人の妖精がトルトの元へやってきた。二人ともベルナールとセレイルのように羽根飾りのついた兜をかぶっていたことから、隊長であるのがわかる。
その二人は兜を脱いてその場にひざまずいた。
はっきりと返事を返したグリルは、明るいオレンジ色の髪をした、高校生くらいの背格好の男性だ。火属性の持ち主なのか、赤い騎士団の甲冑に身を包み、運動会の時に巻くような赤い鉢巻きをしている。
そして少し間延びした返事を返したもう一人、ジルビアは薄ピンク色の肩までのふんわりとしたボブヘアをした、美玲たちよりも少し大きい、六年生くらいの背丈の女性だ。彼女は地属性の黄色い甲冑に身を包んでいる。
二人の背中にはフレイズと同じトンボの羽がある。
「サトル様、カレン様のお二人とともに紅の泉に。魔力の制御を教えて差し上げてください」
「待って、俺と久瀬だけ?」
「美玲たちは来ないの?」
予想外のトルトの言葉に、不安げにかれんは美玲を振り返った。その視線を受けた美玲も驚いてセレイルに視線を送ると、セレイルはふわりと優しく微笑んで美玲のそばにやってきた。
「紅の泉は炎帝の庭ともいってね。特に水属性の侵入を炎帝は喜ばないんだよ」
「えーーー、何でですか……」
水属性だけが仲間外れみたいに感じられて気分は良くない。
「火は土の上でその形を保つことができる。もちろん火を消すこともできるけど、火が形を保つには土が不可欠なんだ。そして、火は風を受けて大きくなることができる。ろうそくの火に息を強く吹きかければ火が消えるように、風も火を消すことができるけど、大きくするためには必要なものだ。だが水は火を消すことしかできない。違いはわかるかい?」
「水は火を消すことしかできないってことですか?」
説明をしてくれたフレイズの言葉に美玲は拗ねたように唇を尖らせて尋ねる。
「もちろん、火の暴走を止めるのは水の仕事だよ。ただ、どうしても鎮める、消す、という自由に燃えたい火の意思を止める役目が主だから、火にとっては水は脅威……えーと、怖い存在ってことだよ」
「水からしたら、凍っていたら溶かしてもらえるし、温めてもらえばお湯にもなるし水蒸気にも変化できる、ありがたい存在なんだけどねぇ」
フレイズの言葉に続き、セレイルが苦笑しながら慰めるように美玲の頭を撫でた。
「それだったら風属性の俺はいけるんじゃないか?」
市原が手を挙げて飛び跳ねた。フレイズに直してもらった火傷はもう大丈夫のようだ。
「ナイト坊、だからな、風は炎を大きくしちまうから、危なくて入れないんだよ」
「えぇー……」
諭すようにベルナールに言われ、諦めの悪い市原も唇を尖らせた。
「まぁ、どうしても入ってはいけない場所っていうのがあるのさ。あんたたちの世界にもあるだろう?」
セレイルの言葉に危険だから、という理由で立ち入り禁止になっている屋上を思い出した。
紅の泉も、風は火を大きくしてしまって危険で、水は火の力を消してしまうから火精霊にとって危険だということだろう。
せっかく再会できたのに、また別々に行動しなくてはならないのかと思うと残念だった。
それまでやりとりを傍観していたトルトが咳払いをし、全員の意識を向けさせた。
「陛下の目覚めの儀式まで日があるのが幸いですね。サトル様、カレン様、お疲れのところ申し訳ありませんが、準備を整え次第、出発してください」
「は、はい……」
緊張した様子で志田は返事をし、かれんは無言で頷いた。
「では、私はこれで。ジルビア、あとの修復は頼みましたよ」
「おまかせくださいませ〜」
そう言ってトルトは修練場から出て行き、隊長たちは修復作業に戻った。
床の氷を火精霊の力で溶かし、ひび割れた床を地精霊の力で元に戻していく。
水精霊と風精霊の力で埃まみれになった修練場を清掃し、乾燥させる。
あっという間に修練場は元に戻り綺麗になった。
「美玲」
「ん?なぁに?」
「私、頑張る。力をちゃんと使えるようになるから……」
「市原、俺も頑張る。だからさ……」
志田も市原をまっすぐに見つめた。
「おう、みんなで絶対に元の世界に帰ろうな!そんで、アイス食おう!」
市原はニカッと笑い、拳を突き上げた。
他の三人も頷き、同じように拳を突き上げ、決意を固めたのだった。





