五日間の予定
美玲たちはトルトたちを見送り、四角いクッキーに再び手を伸ばした。
美玲が食べたものにはナッツが入っていて、ナッツの歯ごたえもよく、味も香ばしい。
「あと五日、か……結構長いよな」
アイスのことが余程ショックだったのか、机に突っ伏しながら市原が呟いた。
うだうだしている市原を横目に、三人はモソモソとクッキーをかじり、ドクダミ茶をすする。
やがて、上体を起こした市原もクッキーに手を伸ばし口に入れた。
子どもたちは皆言葉が少なくなり、クッキーを食べる音しかしない静かな部屋は、まるで鉛筆の音しかしないテスト中の教室のようだ。
「あ、そうだ。私、魔法の練習してみたいんだけど……」
そんな中、おずおずと手を上げてかれんが言った。
「なになに??」
「かれんが魔法の練習したいって」
ぼんやりしていたため聞いていなかったらしい志田の問いに美玲が答えた。
「それ俺もしたい。操られていた時に使えたって言われても、どんなのか全然覚えてないし」
テーブルの上のグローブをみつめて志田がいう。
「ていうか、俺が魔法を使えるなんてまだ信じられないけどな」
そしてカラカラと笑って頭をかいて言った。
「ポワン、部屋に行く前に魔法の練習したいんだけど。どこかいいところないか?」
入り口の近くでティーセットの整理をしていたポワンに市原が尋ねると、彼女はワゴンの上に持っていたティーポットを置いて何かを考えるそぶりをしている。
何か思いついたように顔を上げると彼女のツインテールに縛られた栗色の髪がふわりと揺れた。
「……では、騎士団の修練場などはいかがでしょうか」
「修練場?なんかすごそうなとこだな!」
言葉の響きでテンションが一気に上がったのか、市原が顔を輝かせた。
「ちょっと、ナイト様、修練場は遊ぶところじゃありませんよ!」
「はいはいわーってますって」
絶対わかっていない、と思わせる市原の態度にポワンは怒った猫の尻尾のように髪を逆立てた。
「もーっ、本当にわかっていますか?ナイト様!!とりあえず今、騎士団の方にお聞きしてくるのでお待ちくださいね!」
そう市原に念を押して、ポワンはワゴンを押して部屋を出て行った。市原はよろしくというふうに手を振り、彼女を送り出し、席についてご機嫌でまたクッキーをかじった。
「じゃあ、五日間はみっちり魔法の練習だな」
「精霊王を召喚できなかったら困るもんね」
志田の言葉に美玲も頷き、自分の武器を手に取った。
透き通った水色の精霊石がキラキラと窓から射す陽の光を反射して煌めいた。
「五日後、元の世界に帰るために……!」
五日後、月が隠れる時に備えてやれることはやろう、と運動会前の気持ちにも似た興奮が四人の心に起こっていた。





