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【第5話 黒い何かとの戦い】

「まさかこんなところで君を見つけるとは思わなかった」


 苦笑して彼は空を見上げた。


 美玲はわけが分からず、フレイズが眺めている空を自分も見上げた。


 灰色の空には鳥だろうか、何か黒いものが群れて飛んでいる姿が見えた。


 それは2回ほど空を旋回すると、真っ直ぐに飛び始めた。


 そのまま森の向こうへ飛んでいくのだろうかと見ていたら、それはだんだんとこちらに近づいてきていることに気づいた。


 一直線に向かってくるそれは、明らかに美玲の知っている鳥とは大きさが違いすぎる。


 カラスなんかとは比べものにならない、まるで春の校外学習で行った空港で見た、小型飛行機くらいの大きさに見えた。


 暑すぎて頭がおかしくなっているのかもしれない。それともやっぱりこれは夢なのだろうか、熱でもあるのだろうか、と額に手を当てるが熱はない。


「奴らめ、やはり現れたか。 早く隊長達と合流しないと」


 美玲はぎょっとした。


 フレイズが腰から銀色に光る何かを取り出したからだ。


 軽い金属音を立てて鞘から抜かれたそれは、漫画や映画でしか見たことのない、細身の剣だ。


 突然、他の草むらからもフレイズと同じような格好をした人のようなものが飛び出した。


 彼らはトンボや蝶のような羽を広げて、黒いものと空中戦を繰り広げている。


  妖精たちの戦うその姿が幻ではないのだと改めて実感し、目を丸くした。

 

 驚いて言葉も出ない。


「きゃっ、何? 」


  黒いものが三体ほど、美玲とフレイズを取り囲んだ。


「はぁっ! 」


 フレイズは黒いものを一薙で二体を一気に真っ二つにし、もう一体には剣を突き立てた。


 黒いものは気味の悪い音を立てて消滅した。

 

「ミレイ、大丈夫? 」


「いや、こないで! 」


 今度は黒いものが地面を這いながら、目のように光る赤いものを爛々とさせて美玲に近づいてくる。


 それらもフレイズが瞬時に消し去る。だが黒いものは斬っても斬っても後から湧いてきてキリがない。


「ミレイ、しっかりつかまっていてね」


「へ? 」


 そう言い終わるか終わらないうちに、フレイズは美玲を小脇に抱えると、トンボのような羽を広げ、飛び立った。


  周囲で戦っていた他の妖精達もフレイズとほぼ同時に空中へ逃れた。


「ーーーーっ! 」


 何が起きたのかわからず、声にならない悲鳴を上げた。目の前からは黒くうごめく、何やら得体の知れないものが向かってきた。


「やだっ! 」


  それに気づいたフレイズが剣で黒い何かをなぎ払った。


  それは消滅し、ホッとしたのもつかの間であった。


  左足に違和感を覚えた美玲が恐る恐る足を見ると、そこには先ほど消えたはずのどす黒い何かが足首に張り付いているのを見つけた。


「っふ、フレイズ、さん、なんか、なんか気持ち悪いのが……! 」


  ヒルのような形のそれは、どこまでが体でどこまでが首なのか、どの部分が顔なのかもわからない。ただ、青く光る二つの光が目玉に見えた。

 

 その目玉と視線がぶつかったと思った次の瞬間、それはゆっくりと動き始めた。


「やだ、あっちいって!! 」

 

 まるでナメクジのように足首からじわりじわりと登ってくる。


 その不快感と恐怖から無我夢中で足を振るが、その黒いものは離れない。


 美玲を抱えるフレイズのバランスが悪くなっているが、そんなことにかまっていられない。


「ミレイ!」


 フレイズも美玲の足にまとわりつくものに気がついているようだが、彼もまた、前方から向かってくる黒い何かを相手にするのが精一杯で、美玲の足にまとわりつくものにまでは手が回りそうにもない。


 足首にいる黒いそれの、目玉とみられる青い光の下がパックリと開いた。


「やだぁ! 」


  赤光りする口の中のようにぬらぬらと光るそこに、尖った牙のようなものが並んでいるのが見えた。


 黒いそれは大声を出した美玲を威嚇するように、シュウと息を吐いた。


 息が触れた部分の皮膚がチリチリといたんだ。


「痛っ! 」


 墜落しても構わない。


 とにかくこの気持ち悪いものを引き剥がしたい。


 そう思って美玲は空いている右足で青い目のような部分を何度も蹴る。そしてトドメとばかりにかかとを思いきり落とした。


  その黒いものは力尽きたように美玲から離れると、草原へと落下していった。


 やっと自由になった足にはうっすらとあざと粘液が付いていて、ヒリヒリとやけどのような痛みと痺れを感じさせてきた。


 美玲はぐったりとして体の力を抜いた。


  早くこの気持ち悪い粘液を流したい。少しでも粘液を落とそうと、美玲は足をブンブンと振り回した。


「ミレイ」


 フレイズを見上げると、彼は美玲の足を指差した。


  その指の先からは、光る緑色の粉のようなものが出てきて、粘液で汚れた部分を包んだ。それは温かく、それまで感じていた痛みや痺れも治った。


 やがてその光が治ると粘液はなくなっていて、うっすらとしたあざだけが残っていた。


「ありがとう……」


 驚いて礼を言うと、フレイズは首を振ってにっこりと微笑んだ。


「これぐらいしかできなくてごめん。 ちゃんとした手当は本部でしてもらうから、少し辛抱してね」


 そう言ってフレイズは視線を再び前にむけた。


 下を見下ろすと、草原に二人の影が写っているのが見えた。


 草原の所々では、フレイズの仲間が黒い何かと戦っていた。


 時々火花が散り、金属音が聞こえてくる。


 やがて黒い何かの群れの中を抜けることができたらしい。


 彼は高度と飛行の速度をさらに上げた。


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