何の妖精?
美玲ははた、と緊迫した仲にも親しげに言葉をかわすネフティとジャニファの姿を思い出した。
「そういえばネフティさんってジャニファと知り合いだったの?」
その問いかけにネフティは少し寂しそうに笑ってフォークを置いた。
そして昔を懐かしむような、遠くを見るそぶりをしてから頷き、質問をした美玲をまっすぐにみつめて答えた。
「……幼馴染だよ」
その瞳の色はどこか寂しそうで。
まるで泣きそうに潤んでいるようにも見えて、美玲は言葉を失った。
「ご、ごめんなさい……」
「あぁ、そんな悲しそうな顔をしないでくれ、ミレイ君、ごめんね」
気まずいような、静まり返った食卓にあわててネフティは明るく言って場を和ませようとした。
「なら、トルトさんとも幼馴染なの?」
「ん?そうだよ」
市原の質問に頷き、ティーポットから食後のハーブティーをカップに注いでそれぞれの前に置く。
「うちらみたいにお母さん同士が仲よかったとかかなあ?」
美玲とかれんは母親同士が親友で、まるで姉妹のように幼い頃から何度となく遊んできた。
「おかあさん……?あぁ、わたしたちは植物から生まれた存在だから、人間や動物たちのような親というものはいないんだ」
ネフティからティーポットを受け取るとフレイズは盆に食べ終わった皿といっしょに乗せ、キッチンに下がった。
綺麗になったテーブルの上にはハーブティーとお茶請けのドライフルーツとナッツがあるだけだ。
「この国の伝承……言い伝えには私たち妖精は“空を父とし、大地を母として生まれし生命”って言い伝えられているよ」
ハーブティーを飲みながらネフティが言う。美玲もよくわからないながらも頷き、初めてのハーブティーに口をつけた。
ほんのり桃色のそれは少し酸味があって、香ばしいナッツにちょうど良い。
そこへ片付けを終えたフレイズが沸かしたてのお湯が入った薬缶を持って戻ってきた。
「ちなみに俺は松の妖精だよ」
「そうだね。わたしはブナの妖精さ」
「ブナ……?」
「俺知ってる。どんぐりの木だよな」
「秋になると男子たち、どんぐりゴマとか作ってよく遊んでるよね」
志田とかれんの言葉にネフティは嬉しそうに微笑んで、木苺のドライフルーツに手を伸ばした。
「じゃあ、ジャニファは……?」
「彼女はカタバミ。とても可愛らしい、黄色い花の妖精さ」
恐る恐る問いかけた美玲にそう言って、ネフティはドライフルーツを口に放り込むと、懐かしむように目を細めた。
見たことも聞いたこともない花の名前に、美玲はかれんと顔を見合わせて首を傾げた。
「わたしが生まれた木の近くに、ジャニファとトルトのカタバミがあって、私たちはすぐに仲良くなった」
「そういや、トルトさんが記録官になる前にジャニファとささいな姉妹喧嘩をしたって言ってたな」
思い出したように市原がいうと、ネフティは大きな音を立ててティーカップをソーサーにおいた。
勢いでこぼれたハーブティーが木のテーブルを濡らしている。フレイズが慌てて台拭きで拭いているが、ネフティの視界にはその様子は入っていないようで、彼は呆然とした様子で市原を見つめていた。
「些細だって?あれを、些細?本当にトルトがそう言ったのかい?!」
「う、うん……」
今まで穏やかだったなネフティの取り乱しように、いつもはお調子者の市原も、まるで先生に叱られている時のように怯えて首をすくめている。
「あんなのはそんな可愛く言えるもんじゃなかった。あれは……!」
青ざめた顔をして震えながらネフティは、ポツリポツリと語り出した。





