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不審者って何のこと?

サラダをレモンドレッシングに絡めながら美玲はバライダルの言葉を思い出していた。


常夜の国に帰る前、バライダルは言った。


後悔するな、と。


自分たちは間違っていないはずだ。女王をさらい、かれんたちを操っていたバライダルとジャニファは悪い奴らだ。あっちについていっていいわけがない。


そうは思うものの、バライダルの言葉がまるで呪いのように不安を引き寄せ、もやもやとした嫌な感じがずっと美玲の中に渦巻いていた。


あの時の彼の一言一言思い出しながら、香草ハーブをくるくるとお皿の中でまわし、ドレッシングをつける。


「大丈夫?ミレイ」


「あ、うん、大丈夫。これほんと美味しいよ」


フレイズに声をかけられハッとして、フォークでつついていたドレッシングまみれの香草ハーブをようやく口に運んだ。


清涼感のある香草がレモンドレッシングと絡んで、もやもやしたものを吹き飛ばしてくれる感じがする。


つけすぎて少ししょっぱかったけど。


「よくないことが起こらないといいな…私たち間違っていないよね?」


「間違ってないって。不審者について行ったらダメだって、先生たちも言ってただろ」


それでもまだ不安げな美玲のつぶやきに、もう何杯目かのおかわりをよそいながら市原が強く言った。


「あれ、何杯目かな……」


そんな市原を見て、ひそひそと隣の美玲にかれんが耳打ちをしてきた。


「さあ……」


いくら美味しいからといって、食べすぎだろう。後でお腹を壊さないといいんだけど、と美玲も笑って首を振った。


「久瀬もおかわりいるのか?」


かれんの視線をおかわりがほしいのだと勘違いしたのか、市原はおたまを持って左手を差し出した。


「ううん、大丈夫……」


市原に話しかけられ、真っ赤な顔をしてかれんはうつむき、パンケーキを口に運んだ。


「そういえば気になっていたんだけどフシンシャって何のこと?」


フレイズの言葉に驚いた美玲たちは一斉に彼の方を向いた。


「な、なに??」


子どもたちからの視線を一身に受け、たじろいだフレイズは頬をかいて首をかしげた。


「不審者知らないの?!」


「そんな言葉はわたしも聞いたことないなぁ。それって人の世界の言葉だよね?」


志田の言葉にネフティも落ち着いた口調ながらどんな意味なのか興味津々と目を輝かせている。


「ええ〜っと……」


と言っても、何度も家族や先生から聞いた不審者の本当の意味は美玲もよくわかってはいない。


道を聞いてきたりするなんか怪しそうな人とか、知らない人とかのことだと思うのだが、言葉にして説明するのが美玲には簡単ではなかった。


「辺りをキョロキョロ見回して怪しかったり、変な動きをしていたり、悪いことをする人だよ」


「そうそう、ここには怪しい人とか悪いことをしそうな人っていないの?」


市原の助け舟をありがたく思いながらフレイズ達に尋ねると、二人はまたもやキョトンとしている。


「悪いこと……って?」


まさか妖精の世界には悪人はいないとでも言うのだろうか……と市原を見ると、市原も同じような呆然とした顔をして美玲を見ていた。


「例えば……うーん、人をさらうとか!」


道を尋ねてきて、そのまま車に連れ去ろうとするとかテレビで見たことがある。


毎週月曜にある全校朝会で先生達が不審者の劇をしていたときも、道を尋ねるふりをして連れ去ろうとするものだった。


「さらう、さらう……バライダルが女王陛下をさらった他に聞いたことないな」


市原の言葉に難しい顔をして思い出そうとしているが、思い出せないのか、フレイズとネフティは顔を見合わせ首を振った。


「悪いことっていうのも誰かを襲ったり、盗んだりさらったり…っていうなら、アイーグがやっていることだね」


「あぁ、だから陛下をさらったバライダルは不審者っていうのか」


ネフティがパンケーキに花の蜜をかけながら言った言葉を受けてフレイズが頷いた。


どうやらわかってもらえたようだ。


二人の様子に美玲はホッとして、大役を終えたような気持ちになって胸をなでおろした。



この国では、アイーグやバライダルなとの常夜の住人以外は“悪いこと”をしないらしい。


バライダルとジャニファもそうだろう。彼らが不審者の意味を知らなくてよかった、とため息を吐いて、美玲はキノコのミルクスープを口に運んだ。

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