あきらめないネフティ
一方、ジャニファの出した雷の縄に囚われたフレイズとネフティだが、意識を失いかけているフレイズにネフティが必死によびかけていた。
「フレイズ君、しっかりしてくれ、子どもたちが大変なんだ!」
痺れと痛みに意識が遠のきかけていたフレイズは、ネフティの怒鳴り声を耳元できき、何とか意識を保っていた。
「ジャニファは……?」
「子どもたちの方に行ってしまったよ。急いでわたしたちも向かわないと!」
「ですね……」
ぼんやりする頭を、かぶりを振って無理やり覚醒させる。身をよじってみるが、全くビクともしない雷の縄は、さらに食い込み痛みと痺れを与えてくる。
「フレイズ君、ジャニファは常夜王を呼ぶ気だ」
「え、常夜王ですか?!」
驚くフレイズの声に、ネフティは深くうなずいた。
「空を見てくれ。あのオレンジ色が完全に消えた時、大地は完全な夜を迎える。その時に彼が現れるのだろう。時間がないんだ」
切り立った岩肌からのぞく、小指の爪ほどしかないほんの少しのオレンジ色。それすらもう、紺色に変わってしまいそうだ。
「……っ、ミレイ、ナイト!」
フレイズは集中力をあげ、複数の風精霊に命じて雷の縄を切断し、一気に飛び立った。
まだしびれが残っていてふらつくが、自分の体にかまってなんかいられない。
日はしずむ寸前だし、巨大なアイーグとジャニファが美玲たちの方へ今にもたどり着きそうだからだ。
結界の外にいる二人を守らなくては、と羽を必死に動かした。
「来い、ランドラゴン!」
ネフティにはもう空を飛ぶ力が残っていなかったため、ランドラゴンを召喚してその背に乗り、後を追った。
「やれ、アイーグ!」
頭部に乗ったジャニファの号令に巨大アイーグの両目が白く輝きを増しはじめる。
「ジャニファ!!」
「ネフティ……!」
それを阻もうと、ネフティがランドラゴンごとジャニファに突っ込んだ。
ジャニファは細身の剣を抜いて突進を受け流すと、アイーグの頭部から飛び立った。
「せっかく情けをかけてやったのに……馬鹿なやつ」
紺色の空に溶けてしまいそうな深く黒い羽を羽ばたかせながら剣を構え直し、呆れたようにつぶやく。
「言っただろう、わたしはもう腰抜けではない、と!地精霊讃歌」
「しつこいぞネフティ!豪雷撃!」
ネフティの呼び声に応じ、硬い大地を割って緑色の蔓がジャニファを捉えようと伸びる。
しかしジャニファはそれを雷撃で撃ち墜とし、銀の鱗粉を巻きながらさらに上空へと逃れた。
「無駄だ!」
「ジャニファ、やめてくれ……!」
ランドラゴンの背で、届かない手を伸ばす。
だがジャニファは銀の鱗粉を巻きながら浮遊したままで。
「ジャニファ……!」
何度呼びかけても氷のように冷たい瞳で見下ろしてくるだけだ。
紺色の空に、月のように白く輝く二つのアイーグの目。その光がどんどん増していく。
まるで涙のように光が溢れてきて、こぼれる、と思った瞬間、一直線に美玲と市原に向けてそれは放たれた。
「やめろ、ジャニファーーーッ!」
ランドラゴンを駆り、護身用の短剣を抜いたネフティがジャニファに突撃をした。
ネフティの意思に応じた地精霊が硬い大地を押し上げ、ジャニファに届くくらいに高く隆起させる。
「お前が何をしても今更何も変わらない!」
向かってきたネフティの短剣を難なく弾きとばし、嘲るように笑った。





