【第4話 知らない世界で、ひとり】
夢かもしれない。
そうだ夢だ。
あまりの暑さに自分は倒れて夢でも見ていて、起きたらあの涼しい職員室のソファにいるのかもしれない。
そう思って頬をつねってみるが、痛みがあるのでその期待はむなしく消えた。
風に吹かれて、まるで海のように草原が波打った。草ずれの音が心細さに拍車をかける。
美玲の目の前がだんだんとぼやけてきた。鼻がつんとしてくる。
「はい、どうぞ」
突然、目の前に差し出された自分の麦わら帽子に驚いて顔を上げると、深緑色の瞳が美玲をまっすぐ見つめていた。
緑色の鎧に身を包んだその人物は、見たこともない不思議な格好をしていて、大人の男性のように背が高く、なかなかの美男子だった。
だが男の耳は尖っていて、どう見ても人間ではない。
おばけ?妖怪?そう思ったが、不思議と美玲は目の前の不思議な男を怪しいとは感じなかった。
それよりも、昔から知っているかのような、懐かしささえ感じる。
「あ、ありがとう、ございます……」
「どういたしまして」
帽子を受け取ってお礼を言うと、男はにっこりと笑みを浮かべた。
目の前に立つこの男は一体何者なのだろう。
「あれ?」
ふと、彼の背中にトンボのような羽を見つけた。それはよく、物語などで見る妖精の背にあるものと同じだ。
では、目の前に立つ彼は妖精なのだろうか。だとした、美玲は妖精の世界に迷い込んでしまったのだろうか。
人間が異世界に行って世界を救ったりする物語りを読んだことはある。
だが妖精がいるのは外国で、日本じゃないはず…などとあれこれと考えているうちに、美玲の頭の中はこんがらがってしまった。
「伏せて!」
男にいきなり強い力で背中を押され、地面に顔を押し付けられた。
目に入るのはススキのような青々とした植物の茎と、地面だけだ。
「何するのよ!」
「シッ!静かに」
やはりこの男は不審者なのだろうか。
でも防犯ブザーは自分の部屋にあるランドセルにつけたままで、水やり当番の今日は持ってきていない。
いや、それがあったとしても周りには人の気配がない。助けてもらえる可能性は低い。
それでも何もしないよりはマシだと、大声をあげようとした時にはすでに、その大きな手で口を塞がれてしまっていた。
なんとか逃れようと暴れてみるが、大人の力にかなうわけがない。
「静かに。俺は怪しいものじゃないよ」
美玲のあまりに激しい抵抗の様子に、男は慌てた様子で言った。
「俺の名前はフレイズ。四元騎士団風部隊に所属する騎士だ。ミレイ、俺は君を探していたんだ」
「はぁ?」
助けを呼ぼうとした口から間抜けな声が出た。