火と水の戦い再び
「市原?!」
激しい衝突音に驚き、美玲は目を凝らして見るが、土煙の奥には人影しか見えない。
日はすでに沈みかけ、藍色の空に星がいくつか瞬いている。
どんどん夜が迫っている。
夜は常夜王の世界。シラギリの森の時のように、またかれんたちを取り戻せなくなるかもしれないと、美玲の心に焦りがでてくる。
かれんを取り戻すためには、逃げてばかりいられない。
親友と戦うのはいやだけど、取り戻すためには戦わなくてはならない時もあるのだ。
かれんが放った火球を打ち消し、大きく深呼吸をした。
「水皇!」
炎帝と武器を交えていた水皇を呼び寄せ、二人で炎に立ち向かう準備を整える。
水皇が美玲のそばに行ったのを見て、炎帝もまた、自分を使役するかれんの元へと一瞬で移動した。
「かれん…!」
美玲は筆を握る手に力を込めた。緊張して汗がしみでてくる。思い切って降ったら手のひらからすっぱ抜けて飛んで行ってしまいそうで、手のひらの汗をふくらみのあるズボンの生地に拭った。
「火焔弓!」
「カ、水鏡!」
飛びかかってくる火の矢をレンズ状の形に変えた水の鏡で防ぐ。矢は水鏡にあたり、蒸気を上げて消え去るが、矢継ぎ早に襲ってくるそれは、水の鏡を押しのけ、穴を開けようとしてくる。
「……っ!」
美玲は先端の精霊石に力を込めた。
乾燥した空気に水分は奪われていき、火は勢いを増していく。
鏡は次第に薄くなり、やがてじわり、と鏡の中央が赤く溶けてくる。そしてゆっくりと矢の先端が姿を表してきた。
「く……っ」
鋭い先端が美玲に向けられている。
そこからじりじりと伝わってくる言いようのないものに、美玲の背筋に冷たい汗がつたい落ちていく。
「水強化……!」
精霊石に集中し、筆を前に突き出す。
たぷん、と水鏡の表面が波打ち、それの厚さが増して弓の進行を阻んだ。
しかし。
「火強化!」
かれんの振るったバトンから、先ほどよりも大きく、太い炎の矢が放たれる。
「……っきゃ……!!」
それは強化した水鏡を容易に突き抜け、美玲の方へとまっすぐすすんでくる。
自転車で転んだ時、なぜか周りの景色がゆっくりしてみえたのを思いだした。
降り注ごうとするいくつもの矢を見上げ、スローモーションで近づいてくる火の矢を、ぼんやりと見上げた。
「永倉、危ない!」
土煙が晴れ、美玲の危機を察した市原が足に力を込め、大きく跳躍した。
「風舞!」
跳びながら放たれた風の魔法に巻き上げられ、火の矢は洗濯機の中の衣類のようにバラバラとその中を舞っている。
「永倉、ぼさっとしてんなよ!」
「ご、ごめん…」
近くに着地した市原に叱られ、ぼんやりとしていた意識をようやく取り戻した。
「怪我してないか?」
「うん。だいじょぶ」
心配そうに顔を覗きこまれ、美玲の胸がどきりと跳ねた。心配してくれたんだ、と少しむず痒く感じて早口に答える。
無意識にほっぺたが熱くなるのがわかり、美玲はごまかすように竜巻を見上げた。
「風収束」
火の矢を巻き上げた竜巻はだんだんとちいさくなり火の矢とともに消え去った。





