風と土の戦い
勢いよく放たれた風の球は難なく土の波を砕いていく。
風の玉が作った暴風に巻き上げられた砂と石が降ってくるが、固まりが飛んでくるよりもマシだ。
「はぁあああつ!!!」
市原は風の玉を放つ手のひらに力を込めた。リストバンドの精霊石がより一層輝きを増す。
土の波はまだ形を残している。それの全てを砕かなくてはならない。
「いけいけいけいけぇええーーーっ!」
「っ!!」
凄まじい衝突音が地精霊谷に響く。もうもうとした土煙であたりはもうほとんど見えない。
細かく砕けた石が顔の脇を飛び交い、ほおに切り傷をつけていく。
「っ!」
突然、土煙の奥から手につけたキーパーグローブの形をした武器で、風の球をまるでサッカーボールをパンチングするようにして消しながら志田が飛び出してきた。
「志田…っ!」
いつもグラウンドでサッカーをするとき、必ず志田はキーパーをする。その時と同じように、飛び交う球を虚ろな顔でパンチングをしながら打ち消していくその様子はとても不気味だ。
「地王来い…」
志田のつぶやいた言葉に離れた場所にいるはずの地王が反応して地に潜り始めた。
「な、何??」
地響きがしたと思ったら、志田の足元から地王が飛び出し、市原に向けて咆哮した。
間近でみる地王はとても大きく感じ、目一杯開かれた地王の口の中には、たくさんの歯が見える。
食べられる……!そんな怖さが足の裏から這い上がってくる。両足に力を込めれば大きく跳ねて逃げられるのに、市原の膝は震え、力が入れられずにその場に尻餅を着いた。
「じ、風主!」
恐怖から声が出なかったが、なんとか市原も悲鳴交じりに風主を呼び寄せると、地王の牙が触れる前に間一髪、白い羽を撒き散らしながら市原を抱え上けてとびあがった。
「晶石弾」
志田が唱えると、地王が足を踏み鳴らし、大地にいくつもの結晶化した精霊石が姿を現し、市原と風主に向けて発射される。
「ま…じかよ…っ!」
風主が翼を羽ばたかせ、風の刃を作り、迫り来る精霊石を砕いていくが間に合わない。
「風……うわぁあっ!」
火の精霊石と風の精霊石が同時に砕け、火炎の竜巻になって襲いかかる。
しかし炎を避けた時に風主が片翼を失い、バランスを崩した彼の手から市原が放り出される。
「来たれ、大地の母!」
ネフティが大地に手をつき呼びかけると、今度は光のきらめきとともに大きなキノコが現れた。
赤い笠に黄色の斑点を所々につけたそのキノコには可愛らしい顔が付いている。
市原はキノコの笠に無事着地し、続いて落ちてきた風主を抱きとめた。
「風主、大丈夫か?」
市原の言葉に風主は何でもなさそうに頷き、再び翼を生やし飛び上がった。
「大丈夫かい?」
「ありがとうございます、ネフティさん!」
市原の言葉に片手を上げて返答したネフティから、志田と地王に視線を戻す。
「晶石弾!」
市原と風主の無事を確認した志田は、再び同じ呪文を唱える。大地から現れた精霊石の弾丸に、今度はやられまいと市原も身構えた。
どうすれば良いか、風主のイメージが伝わってくる。
「風刃舞!」
迫り来る精霊石の雨に、市原は風主とともに手のひらを向けて風の刃をいくつも放った。
鋭い風の刃は精霊石を切り刻み、そのうちに閉じ込められた力を小さな竜巻の中に閉じ込め、消し去っていく。
あたりには精霊石が風の刃に砕かれる音が響き、風に巻き上げられた土煙の中、精霊石のかけらが赤い夕日を反射している。
日が沈みかけてオレンジから藍色の空に変わる空に、きらめく精霊石のかけらがまるで星のようであった。





